『言いたいこと言ったし、後はナミ自信の問題だな〜。でもゾロの態度もどうかなァ。……――う〜ん。いろいろしゃべって疲れたなー。肉食いたい』
パラレルお題:2白衣(そのE)
振り払われた手を見て思考回路がとまったかのようにゾロはその場から動けなくなった。
『さわらないで』この言葉にとらわれたかのように。考えるまでもなく言葉のままだったが。
なにかナミに対して気を損ねることでもしただろうか、それとも……なんだというのか。
サンジの彼女になったからゾロに――彼氏意外の男に――触られたくない、ということだったのか?
疑問符が頭の中をいったりきたり。先日ナミに釘をさしておいて、一安心していたのにナミが倒れたときのサンジの態度はナミを本気で心配しており、釘をさす前よりナミとの距離がよりいっそう近くなっているような気がゾロにはした。
しかし、とゾロはさきほどのナミを見て思う。
(あんなにやつれてたのによ……真っすぐな目だけは前と変わらないんだよな。不謹慎だけどよ……色気のある顔しやがってって思っちまう。あんな顔になるのはサンジと付き合ったからか?)
ナミの真っすぐな瞳は初めて会ったときから変わらない。いくら疲れていても、何かを必死につらぬこうとするように顔を会わせたとき必ず真っすぐ目をゾロに向けていた。
その瞳に見つめられるとゾロはナミから視線が外せない。
なぜなら、その瞳にとらわれているから。
心ごとナミにとらわれているから。
初めて会ったときは
『あの〜もしも〜し? ……ツーツー頭の中に通じてますか? 今日遅刻してきた保健の先生どこ行ったか知ってる?』
「頭の中に通じてるだ? 失礼なヤツだな」ぐらいにしか思っていなかったが、ナミはゾロが寝ているとさりげなく起こしてくれ、そのうち段々と話す機会が増えるにつれていい子だなと思うようになっていた。生徒の中では好感度上位に位置していた。
けれど、サンジと付き合っていると聞いて。
裏切られたと思った。そして
好感度上位位置ではなくなった。
だから気づく。
ナミをサンジに近づけたくない。ナミを束縛したい。他の男に触れさせたくない。オレだけを見て笑ってほしい。
そんな邪まな考えがあることを悟られたくなかったため、サンジと付き合っていると聞かされてからナミとは極力最小限のことでしか会話をしなくなった。ナミも付き合っていることを照れていたのか、サンジに気を使っていたのか――会話が少なくなったのもその時期だ。
しかし、そんな2人を見ていられなくなりついよけいな助言をしてしまった。「サンジには気をつけろ」と。
イライラした。胃がムカムカする。思ったことを言えなくて、はがゆい自分が嫌いだった。
(小さいガキかよ。オレは……)
けれど立場上言えるわけもない。「ナミのことを……」なんて。サンジとナミのやりとりを見せられてもくだらないプライドが心を占める。
ナミにも迷惑がかかる。そんなことが噂にでもなったら。
そうなる前に、
ナミへの思いを断ち切る。
そうゾロは心に決めた。
時間は少しさかのぼる。
保健室を先にでたルフィとウソップは――
下校途中にファースド店で寄り道をしていた。
よほどお腹が減っていたのだろうか、ルフィは次から次へと口へかきこむようにして目の前のハンバーガーをたいらげる。
始めは向いあって座っていたウソップの顔が見えないほど積まれていたハンバーガーも、約半分の高さになり、お互いの顔も見えるほどにルフィの胃袋に消化された。ルフィが食べただけハンバーガーの紙くずがウソップの前にもられていることにたいして、いつものことなのでウソップはつっこまない。
学校からファースド店に入るまでルフィに先ほどナミへ言ったことについて聞こうか、聞かざるべきかウソップは悩んでいた。
(一応)おれもナミの友達だしな……子分って気もしないでもないが。う〜ん。聞いていいものか、悪いものか。
ウソップの目はじーっと一点を見つめていたかと思うと、次には子供の後ろ姿を追っていたり定まりがない。考えごとをしているときのウソップの癖だ。
言いたくないことなら言わねェだろうし、聞いてみるか。気になって寝れそうにないし。
そう思い、
「なァ、ルフィ。どうしてさっきはあんなにナミにキレてたんだ?」
「ん? もぐ……どう……ごっくん……もしゃ……もぐもぐ……。もぐもぐ……で、だな……もぐもぐ……だよ」
「『もぐもぐ』の方が多いじゃねェか! 噛み砕いて、食道を通ったらしゃべれ」
もぐもぐもぐもぐ――ごっくん。
食べたと同時に次のハンバーガーに手を伸ばそうとするルフィの手をパンとはじいて、ウソップは半眼でルフィを見つめた。目が”食べる前に話せ”と言っている。
「んあ〜。悪い悪い。ししし……いっぱいしゃべると疲れるな。つい腹へっちまうし。で、なんの話だっけ?」
「おまえがナミに対して怒ってたわけだよ。言いたくないなら別に言わなくていいけどよ」
「なんだよ、はじめからそう言えばいいのに」
「はじめから言ってるだろ!」
「わかった、わかったって。そんなに怒るなよー。ナミに対して怒ってたわけだろ? ――怒ってたとか、そんなんじゃないよ。友達としての注意だな、あれは。うん」
「ダチ(友達)としてか。でもあの怒りかたはやっかいだな……おれもよくわからなかったし。賢いのに、かしこくねェってどういうことだ?」
「ああ、あいつ勉強とか成績上だろ? 友達とかに対する態度とか優しいし面倒見もいい。けど、自分の気持ちに気づいてない振りしてるナミは苦しいのにへんに我慢してる、それってバカだろ。どうすればいいか知ってるのに、行動しない。だから勉強はできて賢いけど、自分の気持ちにすらウソつくナミはかしこくないってことだ」
ルフィの言葉に耳をかたむけていたウソップだったが、いまいち理解に苦しいらしい。腕を組んでルフィに思ったことを口にしてみる。
「おまえの気持ちもわかるけどよ。それって、よけいなお世話じゃないか? ナミの男関係に口出しする義理じゃないだろう」
「わかってるよそんなこと。でも、気持ちはぐらかしてるナミに気づいていながら傍にいるサンジを見てられねェんだ。ナミもバカじゃないから、あれだけあおればなんとかするだろ」
「そっか。わかったよ」
「ナミもサンジもおれにとって大切な仲間だしな!」
ルフィはウソップから視線を外しレジに並んでいる親子連れを見て、
「それに……一緒に住むならナミがいいしな」
「なんの話だ?」
「いや、なんでもねェ」
ルフィはウソップとの話が終わるか否か、という時には残ったハンバーガーの残りを勢いよくほおばりはじめた。
「まだ食べるのかよ……」
というウソップの声がぽつりともれた。
つづく
そのFへ
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