『忙しいって聞いてから。だから保健室にこれないんだと思ってた……だけど、真実(ほんとう)は男ができたからだったのかよ?』








パラレルお題:2白衣(そのC)







 心臓が早鐘のように胸を打つ。

 最近遠足の実行委員の仕事が忙しく保健室に顔を見せなかったナミを、保険医――ゾロが廊下で見かけた。

 保険医である彼は、カッターシャツに白衣を着こみ、腕まくりをしている。その両腕はズボンにつっこんで歩いていたため、一見悪ガキのようだ。ゾロはあくびをかみころしつつ、廊下を歩いていた。

 大勢の生徒が廊下に集まっていたのでなにごとかと中心を覗きこむ。

 ナミと女好きで有名――教師の間でも――なサンジがいいあいをしていた。

 久しぶりにまともに顔を見た気がして、ゾロは言葉をかけようと思った。

「おい……」

 ナミ、と続けていおうとした時。

「おまえら付き合ってんのか?」

 ナミと同じクラスのモンキー・D・ルフィの声がした。

 

(……――なんだって?)



 その後のことは覚えていない。ルフィの言葉を耳にしたとき訳がわからなくなった。ルフィの質問にたいして、ナミがなにか言っていたようだったが。


 気づいたときには保健室に戻っていた。


 裏切られた――そう思ったときには、背を向けて歩きだしていた。それ以上じっとしてはいられなかった。

 いま保健室に生徒はおらずゾロ一人だった。

 イスをひきドカっと荒々しく座る。目線をコンクリートが打ちっぱなしの天井に向けてゾロは考えた。



『裏切られた』そう思った。

 ナミは遠足の実行委員になってしまい忙しいので、保健委員の仕事はしばらくクラスの友人に手伝ってもらうことになった。という手紙を保健日誌にはさみ、友人に持ってこさせた。ナミのクラスの担任にも口添えがされていたので、「わかりました」と二言返事で返した。


 けれど、

「きょう聞いた言葉はなんだよ! ……くそっ」

 舌打ちとともに言葉を吐き出す。職員室から離れていて面倒だと思ったが、こういうときは離れていてよかったと思う。

(ナミとサンジが付き合ってる? それじゃあ……実行委員の仕事っていうのもうそか? ……いや、担任もいってたよな。……だーーわけわかんねェ)

 あ! とよい考えが浮かんだ。

 アレコレ悩むことはない。本人に――ナミに聞けばいいのだ。

 


 放課後。


 空いた時間、ナミの担任に「委員会のことで用事があるから、委員を呼んでもらえませんか? 本人でないと困るので」と理由をつけてナミを呼び出すことができた。


 いま目の前にナミがいる。


「よ、よお。久しぶりだな。元気にしてっか?」

「すみません。保健委員の仕事友人にまかせきりで」

「いや、いいんだが」

「保健委員の用事はなんですか?」

 ナミの言葉はどこか事務的で堅苦しいものだった。以前のナミならもう少し気安い感じがしたような気がする。その変化にゾロは戸惑ってしまう。

して、

「子供は恋とあこがれを勘違いしてるよな。ナミはわかるだろ?」

 と、口をついてしゃべっていた。ナミを見ていると、昼休みに見たサンジとのことが頭をよぎった――女好きのサンジにだまされるなよ、との意をこめたものだったが。

「そうですね」

 にこりとナミは微笑む。痛々しい笑顔だった。

 だがゾロには伝わらない。ナミの言葉のままをゾロは受け取る。

「な、なにいってんだろな、おれは。つまり――あいつには気をつけろ。教師のおれがいうのもなんだが、サンジは女ったらしだ」

「はい。わかりました」

 ゾロの最後の言葉は半分聞き流した。


 ナミは一つ心に決める。




 ――――決していわない。いえ、いえない。『好き』という感情が、ゾロにたいしてあることを。ゾロにとって子供は対象外だから。






つづく





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