『おれはあの時見てはいけなかったものを見てしまったのかもしれない――普段はウソつきなおれだけど、こういうことは嘘をついたほうがいいのか?』








パラレルお題:2白衣(そのB)








 サンジに抱きすくめられてナミは泣きくずれた。

 それまで張りつめていた糸が切れたように。それでも声は押しころしたように小さかったが。

 肩が引きつった息をするたび上下する。サンジがなだめるように、ナミの背中をさすっていた。

 

 ――――どれくらいの時間がたっただろうか。

 ほんの短い時間だったかもしれないし、ナミが思っているよりも永かったかもしれない。
 

 カタッ、と静かな教室に音が響く。


 ナミは反射的にその方向へ目を向けた。

 だが、すでにその場に人はいない。タッタッタと廊下を駆ける音だけが響いていたのだった。

(見られた……。誰に?)

 ナミは焦った。サンジと抱き合っていたことがうわさにでもなったら――困ってしまう。

 ふと、そう考えて思った。
 
 ……困る? なにを困るのだろう、いや、誰に対して困るというのだろう。

 そう考えてナミは可笑しくなった。

「またつらい顔してる。ダメだよ」

 そういってサンジはまた、ナミを抱きしめた。




 二度目の抱擁をナミは拒まなかった――――







 ナミがサンジの前で泣いた日から数日がたった。

 あの日から毎日サンジはナミの近くにいる。ベタベタとくっついているのではなく、つかず離れずといったところか。今までのサンジは、付き合った女の子に対してベタベタとしていた感じがあった。しかし、ナミに対してはそういった感じはなく周囲の目を自然とひく結果になっていた。

「なんで静かにしてんのに注目されなきゃいけないわけ! サンジ君のせいだからね」

「そんな〜おれのせい? ……いいや! 周りの連中はナミさんの美貌に見とれてるんだよ」

「女子もかい! おだてたって何もでないわよ。それより……なんでついてくるのよ?」

「あれ? だって……」
 
 と、サンジはナミの耳もとに口を寄せて言葉を続ける。

「……泣いてるナミさんほっとけないし、ね」

「んな、んな、……だから耳もとでしゃべらないでって言ってるでしょ!」

 耳もとを押さえたナミの大きな声が、廊下に響いた。

「仲いいな〜おまえら」

 突然その場ににつかわないのんきな声が、ナミの後から聞こえた。

 ナミは目を丸くして振り向く。サンジはナミの後をのぞきこむようにして相手を見た。

 ニッコリと口の両端をもちあげて、同じクラスのルフィが両手を頭の後ろでくんで立っていた。ニッコリと微笑む姿はどこか頼りなさそうだが、クラスの誰もがルフィを頼りにしている。クラス委員を決めるさいにも、満場一致で彼にやってほしいとの意見であったほどだ――人がよいため、いけにえにされたともいうが。

 ついっとナミはルフィに近寄り、

「なんですって? 誰とだれが仲がいいって?」にこりと微笑んでいたが、目つきが恐い。

「なんだ、ちゃんと聞こえてるじゃねェか。ナミとサンジだよ。ウソップに聞いた。おまえら付き合ってんのか?」

(ウソップ! あいつにサンジ君と抱き合ってたの見られてたのね……。……あとで脅しとくか)

 静かな怒りを宿す目をルフィに向けて――ウソップへの怒りが代わりにルフィに向けられていることをナミは自覚しつつ――、

「違うわよ!」というヒステリックなナミの声と、「や〜照れるなァ。ナミさん! すでに公認の仲だったんだ俺たち」と嬉しそうにいうサンジの声が響いた。




 3人を取り囲むように大きな人だかりができていたのだが、その輪の外で静かにゾロがその場から離れた。

 人だかりの外だったため、保険医がその場に居合わせたことも、人知れずいなくなったことにも誰も気づかなかった。




つづく




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