Dear my sweet honey……U-2
ゾロとの楽しい時間を過ごしつつ、ナミは多少の緊張を持ってソラ君のお守をしていた。ついつい眉間のしわが増えてしまいそうになる。いつ帰ってくるかわからない、仲間を思うと。
これまで胸の奥に隠してきたゾロへの思いを、他のクルーにしられてはいけない。と心にいい聞かせて。
(……思うようにいかないときの方が多いけれどね)とナミは笑顔の下で思った。
ダダダダダダダダダッ!! バターーーーーーーーン!!!!!!!
そう考えていた矢先、勢いよく船外と船内をつなぐ扉が開かれた。
勢いよく扉を開け放った人物は、今はぜえぜえと荒い息を吐き出して、虚ろな目をゾロとナミそしてソラ君へと向けている。
片方の目がギラギラと輝いているようで、どこか化け物じみていた。だが、誰も取り乱さず呆れた視線を向けていた。みながよく知る人物であったから。
その化け物……もとい、サンジは買いこんだ食材を背負い体が床に崩れてなお、下から見上げるようにして言葉を吐き出した。
「ナミさんが……服着てた……。よかっ……た……ゴホッ」
「あたしは裸族かい! たまには普通に帰って来い!!」
サンジの急所に、ナミの蹴りがきれいにおさまるようにはいったのだった。
ナミとゾロが船番に当たっている際には、必ず日に二回はゴーイングメリー号に帰ってくる。ゾロとナミにとっては迷惑な話だったが、サンジは二回だけではまだまだ安心できないらしい。本当はつきっきりでナミの護衛を行いたいが、コックとしての役目は外して考えられず、苦しいながらも切り替えてきちんとこなしている。しかし、会えないのは辛いらしい。その反動なのか、帰ってくるたびにサンジはナミのいる所へ真っ先に飛んできた。一度、風呂場の戸を開けられそうになりサンジに一撃を加えてからナミは、それ以降もサンジに牽制の意味と、少しの腹立たしさを拳や足に込めてふるっていた。
一撃を加えることは毎回のことなので、ナミのサンジにいれる蹴りの入り具合も研ぎ澄まされてきつつある。角度や手首のスナップをきかせた技は、ゾロに密かに教えてもらっていたりするのだが。
そんな光景をよそに、ゾロは器用にソラ君をあやしながら寝ていた。
「起きんかい!」
ナミの鉄拳が、きれいにゾロにはいったのはいうまでもない。
「いてっ!」という声と共に目じりに涙を浮かべつつゾロは、殴り方教えるんじゃなかったぜと、一人反省した。
一時間もしない内に、ぞくぞくと船に他のクルーも戻ってきた。どうやらサンジが「ナミさんのパーティーするから遅れんじゃねェぞ!」と念をおしておいたのだ。ルフィはいわなくてもにおいにつられて戻ってくるという言葉どおり、サンジの心づくしの料理が出来上がるころにルフィはひょっこりと船に帰ってきたのだった。
『お誕生日おめでとう〜』
という言葉と共に、ナミはそれぞれからプレゼントを手渡された。
ソラ君を一時ゾロにあずけて、ナミは両手でプレゼントを受け取る。
チョッパーからはリラックスして眠ることができる香草を。
ウソップからはみかんの形のキャンドルを。
ロビンからはシャレたブレスを。
サンジからは手料理だけで十分だといってプレゼントは断ったが、髪留めをサっと頭につけられて「似あうからよかったらもらってください」と、サンジの気持ちをむげにもできず結局受け取った。
ルフィからは、全島共通ギフト券たるものをもらった。どうやらたまたま立ち寄った店で、1万人目の客だったらしい。運のいい奴である。
最後にゾロの番になったが、両手はソラ君を抱えていて何かプレゼントらしいものを持っていそうに見えない。視線を合わせないゾロに対しナミは優しい声音で話し掛けた。
「ソラ君のお守させてもらったので十分だから」
そのまま皆の方を向いて――
「みんなもありがとう! 今日は最高の日だわ」
ニッコリと満面の笑みを浮かべるその顔は太陽に負けないぐらい輝いてみえた。
そのナミの後姿をゾロは苦い顔で見つめていた。「違う! 今は持ってないが、明日一緒に買いに行こう」そう素直にいえたなら……どれだけ楽だろうか。ときどきあのステキマユゲの言葉が巧みなことには驚かされる。
――それでナミに対していえないこともあるのだが。
(買おうと思ってるもんはあんのに……言えねェ。エロコックと似たようなもんだかんな――くそっ)
ゾロは他のクルー達と楽しく雑談しているナミをしばらく見つめていたが、腕の中のソラ君に視線を落として、
「言葉が足らねェか?」とソラ君にだけ聞こえる音量で呟いた。
「だァ」とソラ君は言葉にならない声をだす。
まるで励ましてくれてるみたいに思うのは勝手か、とゾロは一人ごちて苦笑をもらした。
ゾロは窓から見える空を見上げた――ナミのプレゼントはどうしようかと思いながら――
――――空は白み始めていた。
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