Dear my sweet honey……U-3


 




 
――――いえないんだ。いや、言わないのか。どうすればいいのか、オレにはわからない。










 ゾロの子供騒動から日付が変わって翌日のこと。

 その日も朝から太陽の日差しがきつかった。昨日はゾロが託児所から預かってきたソラ君をあやすのに時間をさいて、ナミは半日潰れてしまった。だからといって、ナミが気分を損なうことはなく、むしろ嬉々としてソラ君のお守をしていたといえる。

 なぜななら、ソラ君のお守が、ゾロとの子供をお守しているという予行演習のように思えたのと、その夜ソラ君が寝静まったのを見計らい、ナミの誕生日会が開かれたためでもあった。

 今までグランドラインの突飛のない気候の変化のおかげで、気を抜くことができずにいた。陸へ上陸しても「今回の航海がどうゆうものであったから、次はどんなところを気をつけて進んでいけばよいか」などといったふうに、つねに心のどこかで考えていたからだ。それが辛くないとはいえないが、ナミ自身が楽しんで航海に望んでいる。そのことがナミの気力の一部であったため、無理にならない程度には他のクルーもナミの行動に口をだすことはなかった。

 実際だしたところで、だまらされるのがおちだが。

 


 昨夜ゾロ以外のクルーがナミにプレゼントを手渡した。そのときはまだソラ君を託児所からあずかっており、報酬はまだ手元になかった。

 だから、

「明日買いにいこう」と言おうと思っていたのだ。

 けれど……サンジが、ナミの髪にサっと髪留めをさすのを見て『こいつも髪留めか』とゾロは心のどこかでナミの誕生日を祝う自分と、一方で冷めつつある感情をも持ちはじめていた。

 昨日アルバイトを探す間、町をぶらぶらと歩いていたのだが――ゾロ当人は迷子になっているという自覚がないらしい――すれ違った女性が、かんざしをさしているのを見て、ナミに似合いそうだなと思った。そう思ったが速いか、ダっと駆け出し、かんざしをさしていた女性を追った。

「そのかんざしどこで買ったか教えてくれないか?」と聴いたときには、顔が真っ赤だったと自分でも自覚している。ゾロはそう思う。

 女性にかんざしの店を教えてもらいその店の地図をもらった。

 本当は金を少しでも店においてきて、ナミに似合いそうなのをキープできれば一番よかったが、金がないためアルバイトを探しているのに、それはできなかった。




(意地を張っているのか、くだらねェ。…………いや、違うか。サンジの野郎にナミへと考えていたプレゼントと似たような物を先に渡されて、一歩ひいちまったのか。サンジのように、思ったことを話せたら……だァーー! あの野郎と比べてもしょうがねェ! やめだ、やめ。くだらねェな)

 と、ゾロは心の葛藤を繰り返していた。










 その考えをもっと深く考えなかったことを、後でゾロは悔やむことになる。










 いよいよソラ君を託児所に帰す時間が迫ってきた。

「じゃあいってくるわね。ソラ君〜みんなにバイバイは?」

 と、ナミはソラ君の手を持って仲間に手をふる。

 ゾロはサインが必要ということと、一人では託児所までの道のりがわからないということもあり、ナミと共にソラ君を送り届けることになった。

 ゾロとナミ以外のクルーに言葉をかけてもらい、それに答えるかのごとくソラ君はギュっと手を握り返した。

 絶対に離さない……というように。顔もどこかこわばっていて、ルフィ海賊団によくなついていたことがうかがえる。

 まだちゃんとした言葉の話せないソラ君は、目線や泣くことで表現した。ソラ君の手に指をあてると赤ん坊とは思えぬ力で握り返してきたりもした。

「いくぞ。ほらよっと――」

 ゾロはナミからソラ君を受け取り、抱き寄せる。

 あまり別れが長引くと、今にも泣きそうなルフィが一緒に航海するのだと言い出しそうだったので、ゾロは出発することにしたのだ。

 その様子を見ていたロビンはくすっと微笑んだが、なにも言わずに手をふって送り出してくれた。チョッパーとウソップ、それにサンジも元気よく手をふってくれている。

 ソラ君は名残惜しそうにゾロの肩からチラチラと振り返ったが、そのうちゾロの胸に顔をうずめて寝てしまった。

 手を後ろに組み、ナミはその様子を少し後から眺めていた。

 微笑ましい時間。ゾロがいて、みんながいて。色々あるけど楽しい航海。

 幸せすぎて怖い。なにか悪いことが起きなければいいけどと、ナミは深く考えていた。

 
「なにやってんだ? 早くこねェと置いていくぞ」

「あ〜ゴメン」

 

 
 しばらくして託児所に着いた。ゾロがソラ君を連れたまま託児所に入ったが、ナミは入るとソラ君と別れにくいからとの理由で、託児所の外でソラ君と別れを済ませた。最後にぎゅっとソラ君を抱きしめて「じゃあね」と。ソラ君はゾロと一緒にいるからかだろうか、理解できなかっただけか、泣きわめくことはなかった。

 抱きしめてもらったことに対して、ニコっとナミに微笑んでみせたのだった。



 ソラ君を託児所に返してゴーイングメリー号への帰り道、あきらかに元気のないナミにゾロは立ち寄りたい所があるからここへつれていけと、一枚の地図をナミに見せた。

「なんで地図があるのに道がわからないわけ?」

「オレにかわるか。あっても辿りつけない自信はある」

 そこには呆れ顔のナミと、変に威張るゾロがいた。

 いつものことだが、このやりとりもまたナミにとっては密かに嬉しかったりする。

 

 地図を片手に辿り着いた先は――こじんまりとしていたが落ち着いた感じの店で、着物姿の女性が出入りしていた。ナミは引き寄せられるようにおずおずと一歩店内に足を踏み入れる。店の中は着物にあう小物が売ってあり、なかでも硝子のかんざしは種類も豊富でナミの心をひいた。

「……好きなもん買っていいぞ。1日遅れたけどプレゼントだから」

 その場にいることが恥かしいのだろうか、ゾロはぼそぼそと話す。

「そう? 選んでいいの?」ナミは上機嫌だ。昨日はソラ君の世話がプレゼントよ! といっていたのに。もしかしたら本物の魔女かもしれねェなとゾロは言葉をださずに思った。



 ナミが選んだのは真っ赤なかんざしだった。透明な硝子に、ところどころ赤が混ざるように映えている。



「ありがとう、ゾロ」

「ああ。気に入ったんならよかった」


 振り返ったゾロは、夕日がナミの顔にあたってほんのり赤みが増して見えた。



 ゴーイングメリー号に着くまでに顔のほてりがおさまるかなとナミは心配していたのだった。







「こんな所で見かけるなんて……、やはり悪いことはできないですねナミ?」

 建物の影に隠れるように一人の男がナミの後姿を見て、口元を歪ませていた。楽しそうに言葉を呟く。

 だが、決して目は笑っていなかったが。

(近くにいるのはノノロア・ゾロか……。あまり視線を送ると気づかれますね。これから楽しくなりそうです)

 そう思うがはやいか、その男は闇にとけるように姿を消したのだった。


 ナミとゾロはこれから起こる出来事にまだ気づけないでいる。




おわり







TOPへ











<あとがき>
 ナミ誕企画であげたのが始めだったので、早く終わらせて次の作品へ! と考えていたのですが更新ペースが遅かったですね(汗) ナミ誕企画は『甘い・ナミゾロ・ほんわか』を頭において話をすすめていたのですが、そろそろ甘い……は終了です。最後になんだか新手が登場して、次から波乱の予感!? です。ゾロとナミさんには苦しんでもらいます(笑) 愛には試練も必要♪(と勝手に思っているので;)