Dear my sweet honey……U
ソラ君が優しい温もりのナミの腕のなかですやすやと寝ていた。泣き疲れたのだろう。
ナミがポンポンと心臓の音に合わせて、背中を優しく叩いている。
そんなソラ君とナミを温かい目で、ゾロが見つめていた。
ソラ君はルフィ達一行が立ち寄った託児所でゾロが預かってきた赤ん坊である。性別男。ゴーイングメリー号の男どもにあやされて泣きやまなかったが、ナミの胸のなかに収まると、それまでのぐずりようが嘘のように、すやすやと眠ったのだった。ロビンは泣きやまないソラ君に対して、技をかけようとした。それを、ゾロが危機回避能力で気づき、ソラ君をロビンから救出し、技にあわずにすんだつわものでもある。
だが、ナミの手に委ねられた次点で泣きやむということは……既に赤ん坊にして、女好きか? とソラ君のこれからを心配するナミであった。
そんなことを考えているとナミは可笑しくなってきた。ナミの子供ではないのだから、心配したところでその先この子のことはわからなくなる。なのに……自分の子のように思ってしまう。
「へんなの」
と、ナミはくつくつ笑う。ゾロがそんなナミを不思議な顔で暫く見つめて、
「なにが可笑しいんだ?」と問う。
ナミはたいしたことないわよ、と答えて視線をゾロから腕のなかのソラ君に戻した。ゾロもあまり気にしないのだろう、ナミにつられてソラ君を微笑んで見つめた。
赤ん坊をあやしていてわかったことだが、ゾロは赤ん坊や小動物といった小さい生き物に弱いということだ。普段はむっつりスケベとサンジにいわれるぐらいである。あまり笑った顔をはっきり見たことはなかった。宴会などそれなりに愉しいことがあれば、それなりに笑顔を見ることができる。だが、相手を慈しむ顔をナミは時々しか見れないでいた。
時々とは、例えばチョッパーに対しての表情だろうか。孤島で育ったチョッパーが、他のクルーと違った意見や考えなどをいったとき、さりげなくゾロがフォローするのである。
本人がそのことに気づいているかどうかは謎だが。
その光景を見つめるナミは、胸にふっと温かいものを感じた。その表情を一度見てしまうと、もっと、もっと見て見たいと思ってしまう。
(欲かしらね)とナミは頬をかきつつ思った。
ゾロは基本的に優しい。
甘やかすのではなく、優しいのだ。甘やかすのと、優しいのでは意味が違う。しっかりとそのことがゾロ自身の中で区別されているようで、チョッパーに対しても優しいという点でいえば弱いが、決して甘やかさない。だから、他のクルーが近くにいなくて、ゾロとチョッパーの三人のときの時間がゾロの慈しむ笑顔を間近で見れる貴重な時間だった。親子のようで、愉しいひととき。
だが、ナミの思うようにことは運ばない。いつも良い雰囲気のときに限って、他のクルーが買い出しなどから船に戻ってくる。主にサンジがタイミングよく帰ってきた。あまりのタイミングのよさに、「サンンジ君、早いわね」と、ニッコリ笑顔で額に青筋たてていったことがあった。だが、「ゾロにばかりおいしい思いはさせたくないから」と、サンジはナミの嫌味を真顔で返した。
(感づいてるのかしら。あたしがゾロとチョッパーとのささやかな時間を大切にしていること)とナミは冷汗をかいたものだ。しかし、そんな心境をおくびにださずにサンジにいう。
「おいしい? そりゃあ、美しいあたしが近くにいるんだものね。でも買出しはサンジ君にしか頼めないもの……。コックさんでないとね」
誉めているようで、その実ナミはさりげなく話の方向を変えて、サンジに言葉を返す。
その話題には答えない。との意を込めて。
「任せといて♪」
サンジは両手をがっちりと組み目はハート型で、ナミに言葉だけでなく体全体で是を示した。
その態度はふざけているようだが、そうではない。サンジはナミをいつも見ている。だから、些細なナミの表情の違いも、理解しているつもりであった。その些細な表情から察する。ナミの考えを。
だから、ふざけている風を装ってナミに答えを返したのだった。健気なものだ。
今日もまた、ゾロと雰囲気のいいところでサンジに邪魔されるであろうと思い、ナミは頭が痛くなる思いがした。
ゾロとチョッパーとナミの三人で航海しているわけではないので、邪魔されることは仕方がないのも事実だ。それではただのわがままだということを、ナミは十分に理解している。それでも、頭が痛くなるのをとめるすべをナミは知らなかった。
――――そろそろ、意識を過去から現在に戻さなければならない。日も暮れてきたのだから。 他のクルーが帰ってくるのだ。
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