ある国では、気弱な人魚の姫は人間の王子に恋をするも思い届かず自ら死を選んだそうです。

 けれど、この国に住んでいるという人魚姫は……思いの届かなかった場合果たしてどうするのでしょうか?

 それはまだ誰にもわかりません。

 ――なぜなら。

 少し変わり者の姫だったからです。

 この物語は、そんな変わり者の人魚姫の物語。








=人魚姫その6=






ナミ姫の指摘に王様は目を丸くしてきょとんといった風。

 その表情からは、是とも否とも読み取れません。

 それに対してナミ姫は顔を曇らせ――

 る、どころかむしろ、

 ナミ姫は余裕の表情を確信へと変えたようです。


 王様が是と認めれば――

 ナミ姫との父と王が旧知の仲だと知れる。


 王様が否といわず黙っているということは――

 真実を話すか迷っている、ということ。


 迷う真実がなければ迷う必要もないのです。

 つまり何も言わなかった事がナミ姫の予想を正解へと確信させた事柄。
 
「王様答えて頂けませんか、父と旧知の仲なら私も次の行動へと移らなければなりませんので」

 やんわりとした物腰で、ナミ姫は王に問い掛けます。

 もはや見抜かれていることを悟った王様は

「……策士 策に溺れる、だな。ナミ姫の言う通りだ。姫の父ぎみをよく知っている。というよりライバルだったのだよ。それがどういう訳か酒を飲んでるうちに意気投合してだな……いつの間にか書面に『子供同士を結婚させる』と印を押してしまっていたという訳だ」

 カッカッカと快活に笑う王様は不意に寒気を感じました。

 なんだ? と後ろを振り返ると


 バチィィィン!!


 ナミ姫が尾びれで王様の顔を殴って昏倒させてしまいました。

「子供をなめるな」

 おくまでにっこり笑顔を最後まで通すナミ姫でした。





                     ◇◆◇





 床に這いつくばる王様を冷たい目で見下ろすナミ姫に、そっと控えめな声がかけられました。

「……なァ、姫さん。そろそろ許してやったらどうだ?」

「何を許すっての、ゾロ?」

「いや、その……王様が嘘ついた事をだな」

「だまれ、下僕♪」

 高圧的な言い方ではなく、清々しい言い方に可愛くさえ聞こえます。

「下僕って、おい」

「なにか文句でもおあり?」

「いえ、何でもないであります!」

 敬礼し、ナミ姫に忠実を誓うしもべ、ゾロ。

「そう、ならいいわ。……でも王子達はこの結婚の事知ってるのかしら」

 ナミ姫は窓まで歩み寄り、眼下の光景を見つつブツブツと一人ごちます。

 そんな時のナミ姫は相手に意見を求めているのではなく、考えモード中なのです。それをよく知っているゾロは口を挟みませんでした。

「そうだ、王子達3人呼んで聞いてみるってのはどうかしら?」

 ゾロの方へと振り返り、相手の返事を待ちます。

 ぶすっとした顔は元々からなのか、ゾロは面白くなさそうに

「お好きなように」

 とだけ答えました。

 そんな言い方がナミ姫の心を荒立てていることに気づかないゾロは、答え終わるか否か――

 耳を思い切りつままれるのでした。





                     ◇◆◇





 図らずもその時、ナミ姫とゾロ、それに王様が倒れている部屋をノックする音が響きました。

 倒れている王をチラリと一瞥し、ナミ姫は一瞬、王が倒れている訳を考えました。

 ――都合の良いいいわけをするか。

 ――殴ったと話すか。


 殴ったで地を這わせたなど知られてはいけません、なぜなら彼はこの国の王様なのですから。

 ではどうノックへと応じるのか。

 ナミ姫はおもむろにゾロへと振り返り、目で余計な口を挟むな≠ニ合図しておいて

「……どなた?」

 ゆっくりとドアを体半分だけ押しあけました。

「少しお時間よろしいですか」

 そこにはニッコリと微笑む優雅な仕草でサンジ王子が立っていました。

「いま少し気分がよろしくないので……また後ではだめでしょうか?」

 儚げな風を装って、ナミ姫は額に手をあてます。それを見た王子は

「中にいる王にも用事がありまして、そろそろ本音で話してもいい頃合かと」

 髪の間から覗く右目は怪しく光ったように見えました。







つづく
(一部修正)

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