ある国では、気弱な人魚の姫は人間の王子に恋をするも思い届かず自ら死を選んだそうです。
けれど、この国に住んでいるという人魚姫は……思いの届かなかった場合果たしてどうするのでしょうか?
それはまだ誰にもわかりません。
――なぜなら。
少し変わり者の姫だったからです。
この物語は、そんな変わり者の人魚姫の物語。
=人魚姫その5=
「くくく……くくっ、はははは……!」
目に涙を浮かべて、苦しそうにお腹を抱えながらナミ姫はなにがおかしいのか笑い続けました。
そんなナミ姫の行動にギョッとなったのはなにも王様だけではありません。
ヒトデマン――ゾロも目を見開いて驚いてます。ついでに口もあんぐりあけて。
「ナ、ナミどうしたんだ? 変なもんでも食べたのか? ってルフィじゃあるまいし……」
「どうしたというのだ、ナミ姫……そんなにわたしの義娘になるのがイヤか?」
ナミ姫の豹変ぶりに王は戸惑いつつ声をかけました。
「……いえ、そんな滅相もない」
ゆっくりと笑うのを辞めて、段々と息を整えていきます。
そして普段の落ち着いていて、優雅なナミ姫へと表情や態度が戻っていくと続けてこう答えました。
「王様……そろそろ手のうちを明かしてはいかがでしょう?」
「な、何のことだ? わたしは思ったままを話したつもりだが」
ムムっと唸って、せわしなさげに顎ひげを撫でつけます。まるで焦る気持ちを落ち着かせるかのように。
「王子様達のお后に――うんぬんは置いておきましょう。問題は……問題はどうしてわたしが姫だと言う事をご存知なのでしょう?」
ナミ姫はニコヤカに微笑んでいましたが、目は笑っていません。
言葉の意味を反芻して、「あっ」っと声をもらしたのはゾロでした。
どうやらゾロもことの真相に気がついたようです。
聡い反応を示したゾロをチラリと見やって満足し、ナミ姫は王様へ疑問の視線をなげかけました。
その視線はおずおずと聞くといった感じではなく、どこか挑戦的な感じのする視線でした。
◇◆◇
「さあ王様、答えて頂けませんか?」
ナミ姫の目はギラギラと怪しい光を放っていました。
「――……聞いたのだルフィ王子に。黙っていてくれと言われたがな。王子は悪くないんだ、問い詰めたのはわたしだ。どうか王子を責めないでやってほしい」
真摯に訴える様は、王の威厳に満ちた顔ではなく、ただただ必死に子を庇おうとする親の顔です。
そんな王の態度にナミ姫は少し黙りましたが、静かに微笑んで言いました。
「……王様。わかりました、ルフィ王子には何も言いません」
「おお、わかってくれたか!」
パッと王の顔が華やいだ瞬間――
「――なんて言うとでも思ったの? そんな手に乗らないわよ。ふん」
先ほどまでの微笑みは何処へ?
腕を組んでジト目でナミ姫は王様を睨みました。
一国の王に対して全く怯んだ様子を見せません。
「なに!?」
何より驚いたのは王様でした。
◇◆◇
「いくら小娘だからって、甘く見てもらっては困ります」
ニッコリと笑顔で、けれどピシャリと言葉は鋭くナミは王様に話します。
「さも子供を庇ういい人面の親なんか演じて……大人気ないですね。私が人魚だと知ってらっしゃるのなら、そう仰って下さればいいのに。ルフィ王子をダシになんか使うから目論見が吐露するんですよ」
「な、なんのことかな」
サーっと王様の顔から色が抜けていきます。
その様子を満足気に見てとると、ナミ姫はフフン、といったように腕を組んでこう答えました。
「たしかにルフィ王子は私が人魚だという事をご存知です。けれど……約束をしました。誰にも喋らないと。
恥かしい話ですが、ルフィ王子と会った時私は泣いてました。死んでもいいと思っていたほどのときだったので、人間に人魚だとバレたってどうでもいいと思ったんです。
でも、泣いてる私を見て王子は『女を虐めたやつはおれがぶっとばしてやる!』って、それに『人が困ることや嫌なことは言わない』って真っすぐな目で言ってくれたんです。
王子は人を傷つけることはしませんし、言いません。私は信頼しています。
では、誰が王に私が人魚だと喋ったのか。どうして王は私がただの人魚ではなく、姫――人魚姫だと知っているのか。
可能性は1つ。
父が婚儀の話を持ちかけたのではありませんか?
だいたい、私が初めて陸にあがった日に城の家庭教師――教育係のことだ――がいなくなって人材を探しているだなんて――そんなタナボタな話あるわけないですしね」
教育係募集の記事がワナだと知っていて、ナミ姫は試験に赴いたのでした。
一気に止まることなく喋り終わったナミ姫は一度言葉を区切って一息ついてから、
「王様……父と旧知の仲ではありませんか?」
悪魔のようなニヤリとした笑みを浮かべて聞きました。
つづく
(一部修正)
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