ある国では、気弱な人魚の姫は人間の王子に恋をするも思い届かず自ら死を選んだそうです。
けれど、この国に住んでいるという人魚姫は……思いの届かなかった場合果たしてどうするのでしょうか?
それはまだ誰にもわかりません。
――なぜなら。
少し変わり者の姫だったからです。
この物語は、そんな変わり者の人魚姫の物語。
=人魚姫その4=
ナミ姫による三バカ王子――サンジ、ルフィ、ウソップ――の教育は連日厳しく行われました。
もちろんゾロも細かい指導など、王族との付き合い方などをレクチャーしましたが、当の三バカ王子達のやる気がイマイチでナミ姫達が陸にあがって5日経った今日でも予定していたことの半分も進みませんでした。
「どうして昨日言った事ができないの?
昨日教えたことを今日できないでいつやるっていうのよ!
今日できなかったら、昨日の事からやらなきゃだめじゃない」
プンスカと怒るナミ姫をよそに、ルフィ王子は口笛を吹いて
「だって、ナミーおまえ宿題多すぎだぜ、な、ウソップ?」
「な、お、おれに振るなよ。おれはマジメだぜ」
しどろもどろになりながらウソップは弁解しますが、左手にはトンカチ、右手には木工用ボンドを持っていては説得力に欠けます。
一番上の兄――サンジはというと
「おい、おまえら。ナミさんを困らせるんじゃねェ。すみませんナミ姫、愚弟の行動はどうぞ許してやってください」
いかにも机に向って勉強している兄がダメダメな弟達に向って叱咤しているように聞こえます。
が、その長男の格好は――
エプロンに三時のおやつの時間だと言って、ティーセット持参でナミ姫の勉強会にやってきたものですから、呆れるしかありません。
「あんたたち、勉強する気ないでしょう! どうするの勉強? 文句を言う前に、いいわけをする前に、気を利かせる前に! ちゃんと王子としての責務を果たしなさい! ほら、ゾロもなんとか言ってや――って」
ビシっと三バカ王子を指さしつつ、後ろに控えていたゾロを見やると――
「あ? 終わったか? 今日は26分35秒。短めだな……フワワ〜」
ゾロは寝ていたようです。
ピキっ
ナミ姫の血管が音を立ててきれました。
そして今日も城内にナミ姫の声が轟きました。
「あんたたちー! そこに正座よ!!」
場所が変わって。
ナミ姫の響いてくる声を自室で聞いている人がいました。いえ、人は人でもただの人ではありません。
三バカ――いえ、王子の父親。
陸の王その人の耳にまで届いていたのです。
三バカが怒鳴られているのにもかかわらず、王の顔は不愉快そうではありません。本当ならば王族に仇なす者――不敬罪で極刑になってもおかしくはありません。
ですが
王は刑に処すどころか、とても楽しそうです。
「ナミ姫はなんとも……そろそろ時期かな」
顎に手をそえて、撫でるように暫く髭をなぞっていました。
◇◆◇
ウソップ王子に加え、兄のサンジ王子とルフィ王子を呼んでの勉強会はその日もつっかえつっかえしながら進みました。
窓枠から見える空は雲に夕日の色がうっすらと染まっているように見えます。
「3人とも……今日はよく頑張りましたね。今日は3分前に終了しましょう」
パンパンと手を叩いて、ナミ姫は勉強会が終了したことを告げました。
それを聞いた三バカ王子は3人揃って――
「…………明日雨かな」
ボソリ。
「なにか仰って?」
三バカ王子の方へと振り向いたナミ姫は張り付いた笑顔で、口元を引きつらせていいました。
「なにもないです! 有り難うございました」
これまた3人揃ってサッさと挨拶をすませると、先を競うように勉強部屋からでていってしまいました。
「まだ教育がなってないようね……先が思いやられるわ」
頬に手をそえて、ナミ姫は溜息をつきました。
「ご苦労さん」
そう言って差し出された熱いコーヒー入りのマグカップを差し出したのはゾロでした。
ヒトデマンのゾロも教育係の助手として働いていたのです。
「有り難う……いつも気遣い感謝しているわ」
ニッコリと微笑む姿は女神と見まごうかというほどです。
「いや、いい」
クルリとナミ姫に背を向けてしまったゾロは歯切れの悪い返事をしました。
ちょうどその時――
コンコンコンと扉をノックをする音が聞こえました。
「はい……どなたでしょうか」
「わたしだ……姫」
しっとりとした落ち着いた声がかけられました。
その声の主にピンときたナミ姫は別段驚いて慌てたりせず、ゆっくりと扉へと近づいて声をかけました。
「王様でしたか。……どうぞ」
ギイイィ……と扉を開けて、軽く会釈をして微笑みしました。
侍女がお茶の用意をしてくれて、王は一息つきました。
「あーえー話があってきたんだが。……王子達の勉強はどうかね」
「お陰様で滞りなく進んでおりますわ。他に人がおりませんので、どうぞ普通にお話になってください」
「そうか……わかった。うむ、それはよかった」
ニッコリと微笑むナミ姫はおべっかではなく、真実を伝えました。連日スパルタで繰り広げられているナミ姫の授業に、三バカ王子達は不満を言いつつも遅れをとっていません。むしろ、他の国の王子達と比べると考え方などが進んでいるといっても過言ではないのです。
満足気に頷いた王は普段とは違って、スラスラと話はじめました。
「いや、いくら和平の為とはいえ、おっとりする王を演じるのも疲れるな。……そうだ、そんなことを言いにきたのではなかった。ナミ姫……一つ頼まれてくれないか?」
「……承諾するかどうかは、聞いてからいたします。まずはどうぞ、おっしゃってください」
「ナミ姫の有能さはどの家臣も認めることだが、市民からも評判がいい。それに息子達も気にいっている。なんせ今まで家庭教師は3日と持たなかったからな」
「まあ、そうでしたの。お褒めにあずかり光栄ですわ」
慎ましく礼をして、王様の言葉の続きを待ちました。
「そこで、だ。わたしの息子は3人いる。どれでももらってやってはくれないだろうか? ナミ姫が気にいった者でよいのだが」
王様の言葉を気いたナミ姫はジッと一点を見つめていたかと思うと、
「少し……お時間頂けませんか?」
静かに答えました。
つづく
(一部修正)
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