『なけなしの勇気を奮っても、あなたには届かない。

 以前と変わらない生活、以前と変わらない言葉。

 以前と変わらない生活へと無理に戻ろうとしているかのようで。

 あなたに向けた感情は大きすぎて、おれの言葉はきっと彼女には重いのだろう。

 見ないように、聞かないように、考えないように。

 あなたはあの日の告白を無かったことにしたいと体で主張する。

 ……――なんて残酷なんだろう』






05 夢の続きはまた明日
(ゾロ誕アンケート第一位「姉弟」)





 ゾロがナミに告白してから一週間がたった。



 あの日、ゾロはそれこそ、なけなしの勇気を振り絞ってナミに思いを告げた。

 ――好きだ、と。

 ゾロの頬が赤みを増している。心臓の音がドク……ドク……と耳につき、自分の心臓の音しか世界に流れていないかのようだ。

 思いを告げることが、これほど心臓に悪いことだったなんて、ゾロは初めて知った。

 チラリとナミに視線をおくる。

「……どうなんだ? ……答えが欲しい」などと、聞けるわけがなかった。

 うつむいている女の人が一言も喋らないときどうすれば良いのか、ゾロには想像もつかない。だから、こんなとき自分から話しかけていいものなのかわからなかった。

「…………」

「…………」

 どのくらい時間がたっただろう。5分か、いや30分だろうか。

 感覚が狂う。

 お互いが一言も喋らない空間は重く、軽々しく口を開ける雰囲気ではなかった。

 しかし、先ほどの重い雰囲気とは打って変わりナミは元気よく

「ゾロが好きだっていってくれて嬉しい。私も好きよ、もちろん家族なんだもん。大切な弟だしね!」

「ちがっ……」

 慌てるゾロをさえぎって、ナミは淡々とした口調で

「違わない。ゾロと私は姉弟――これは変わらない事実」

「…………」

 無言でたたずむゾロに、ナミは努めて明るく言う。

「そんな顔しないで、ゾロのこと家族として好きだから、ごめんね。…………ほら、この話はおしまい。そろそろ夕飯の準備しないと、ちょっと買い物行ってくるね」

 まるでその場から逃げるようにナミは荷物も持たず出て行った。

「…………そんなに嫌だったのか、はは。悪いことしたな」

 ドン! とゾロは拳を力いっぱい壁に殴りつける。

「…………くそっ、振られるのってこんなに辛いものなのか?」

 しん、と静まった部屋に問いがかけられ、そして、

 ポタリ……と水滴が頬をなぞった。





                    ◇◆◇






 ゾロの告白から一週間が過ぎたロロノア家では、以前と変わらずに姉と弟の言い争いが繰り広げられていた。

「なんで、ナミさんはそうなんだ? 何でもこなすって思ってたら、案外ドジだよな」

「なんですって〜? ゾロ、あんたの方向オンチよりマシよ、迷子の迷子のゾロ君?」

「うっせェ、真っすぐ歩いてるつもりなんだよ! おれは」

「あ〜あ、可愛そうに。まだまだ子供ね」

「ちぇ――」

 ゾロが告白する前と変わらない光景。

 ――否、違う。

 ゾロが告白して変わった点は、ゾロがナミを呼ぶとき「姉さん」から、「ナミさん」に変わったこと。

 もう一つは、ナミの変化だった。

 見た目は変わっていない。

 けれど、ゾロに対する些細なしぐさが変わった。例えば、目線をそらす、急に話をわざとらしく変える、など。

(当たり前っていえば、当たり前か……。告白して振った相手が毎日イヤでも顔会わせないといけねェんだからな。……よそよそしくなりそうになる自分を律して、ナミさんはおれに接する。必死で笑顔を作ってる。なんて……いじらしいのだろう、その原因を作ってるのがおれだとしても、その優しさにつけこんで、まだ希望を持ってるおれは……地獄におちるだろか?)

 ふっと口元をつりあげてゾロは笑う。

 振られはしたけれど、「ゾロに綺麗って言ってもらえて嬉しい」と言った言葉は本物だから。

 その言葉を希望として、おれはまだあきらめない。

 たとえ、

 ――小さな希望だと知っていても、その希望にすがりつこうと思った。

 だから、「姉さん」から「ナミさん」へと言葉を変えて彼女にメッセージを送ってみる。

 たとえ、

 この身が地獄へ行こうとも。

 彼女を好きだという気持ちはかえられない。







つづく


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