『”好きだ” と言われて、ハイと素直に言えたなら……

 言えたなら、自分はどうしたのだろうか。

 ……どうもしない。

 それが答え。

 自分の中で決めた決まり事。

 ゾロと家族になると決めたあの日に……

 だけど、一つ感じたことがある。

 子供だ、子供だと思っていたら、ゾロ――あなたの体はいつのまにか私をこえてて。

 やっぱり男の人ってすごいなって思ったのよ』

 




05 夢の続きはまた明日 2
(ゾロ誕アンケート第一位「姉弟」)







 少しの変化をともなって、歯車は動き出した。ゆっくりと、ゆっくりと――

 ゾロがナミに告白したことによって。

 ナミがゾロに告白されたことによって。


 歯車は動き出した――――





                   ◇◆◇





 ゾロが「ナミさん」と呼ぶようになって一週間。だいぶ「ナミさん」との問いかけに答えてくれるようになった。

 ゾロが打診をしていて、ナミが先に折れたという流れで。

 ナミは「ナミさん」と呼ぶことに最初こそ文句を言っていたが、ゾロの一度言ったことは曲げない精神を知っていたため、すぐにあきらめた。

 以前と変わらないよう――ゾロに告白される前まで――、ナミは努めて明るい表情で過ごしていた。

 あの日のロロノア家では昼食がすみ、ナミはゾロが気にしないと思う程度の一定の距離をとって

「ゾロ、おやつ何がいい?」

 ゾロにおずおずと聞く。

 ゾロは振り上げていたダンベルを交互に上げたり、下げたりしながら、

「……あ。今日友達家に来るんだ。おれ実行委員でさ、なんか会議するんだと」

 突然そうきりだした。それにナミは、目つきを鋭くして

「え? なんで早く言わないの! って私が家にいたらマズイわよね――学校には姉弟ってこと内緒だし。……うん、隠れとこ。ゾロ、おやつは自分で台所まで取りに来なさいね」

「お、おぅ、わかった」

「で、何時頃くるの?」

「昼食べたら各自で来ると思うんだが……あいつら時間決めても守らなねェしな」

「そう……なら、急いでありあわせの材料でおやつ作るから、台所通らないでね」

「わかったってー。ったく、子供じゃねェんだから、何度も言わなくてもわかるよ」

「子供でしょうが」という言葉はナミは言わなかった。

 手際よく冷蔵庫から材料を探して、おやつをパンケーキにしようと決めて料理を始める。


 少しして。

 テレビを見ていたゾロは漂ってくるおいしそうなにおいに鼻をひくつかせていた。

「おっ、うまそうなにおいだぜ、へへ。ナミさんはお菓子も作れんのか、いい嫁になるな。ん。……そんな料理一生食いたいな」

 一人ニヤニヤとひとりごちる。

 が突然!

「ぎゃあ」

 ネコを踏んだような悲鳴があがった。

「ナミさん!」

 ゾロは慌てて立ち上がると、料理をしているナミの元へかけた。

 ――見ると、ナミは床に尻もちをついて「あわ……あわ」と言葉にならない声をあげる。

 ゾロもナミの視線にあうようかがんで、「落ち着いて」と優しく声をかけた。

 よほど驚いたのだろう、可愛そうに。カワイイ顔が少し青い。

 突然、

 ゾロの耳にその場に合わない陽気な声が聞こえた。

「おまえ大丈夫か? すまねェな〜。そんなに驚くと思ってなくてよ、しししっ」 

 誰だ! と思いキッと顔をあげると

「…………ルフィ。なんだおまえか、びっくりさせんなよな。……で、どうして勝手に家の中にいるんだ?」

「腹へったからな、なんか食いものねェかな〜って思ってたら台所からいいにおいがしてさ!」

「黙って入るなよな……。ナミさん卒倒したじゃねェか。ったく」

「あ、言うの忘れてた。『おじゃまします』そんで、ごめんなわりィ!」

 ペコリと頭をさげて、ルフィと呼ばれた少年はにこにこと挨拶する。

「入るときに言えよ!」

 ゾロは、ハァーと重い吐息を吐き出して、幼馴染みの態度に頭を抱えた。

 ルフィと呼ばれた少年は、黒猫のような髪がツンツンと四方八方向いてるヘアースタイルで赤のパーカーを着ている。くりっとした目はいきいきとしており、どんなことにも興味があるのだろう、つねにどこか視線が動くものを追っていた。

 にこにこと満面の笑みを浮かべていて、それは誰でも好感が持てる笑顔。

 ルフィと呼ばれた少年は、ゾロの通う高校の同級生で同じ道場に通った幼馴染みだった。





                    ◇◆◇





 少ししてナミが落ち着いてから、ルフィが手短に自己紹介をすませた。

 ナミも軽く挨拶をすませると、「おやつの用意できてないから」といって台所に戻っていった。

「なァゾロ。ナミって、あのナミだろう、昔近所に住んでてすんげェ恐かった。なんでナミがゾロの家にいるんだ?」

 ゾロの幼馴染みであるルフィは、幼い頃近所に住んでいた少し年上のナミのことを覚えていた。

 普段はへらへらとしているが、記憶力が高くばかにはできない。

 ゾロはばつが悪そうに、手で顔をおおう。

「やべ……。いや、その……なんだ、親同士が再婚してな。他のやつらには黙っててくんねェか? まだ誰にもいってねェし」

「おぅ! ゾロが嫌がることはしねェよ、おれ。ゾロの味方だかんな」

 ――味方

 ルフィは仲間としてゾロにいった言葉だったが、ゾロには姉を好きな自分≠応援してくれる味方、というふうに聞こえた。

 ナミに振られたゾロとしては、たあいない言葉にでもすがりたかった。

(都合よすぎか……。でも、ルフィならあるいは……。あるいは、応援してくれるかもしれない)

 そのとき

「こんにちは、ゾロいるか〜?」

 ウソップの声が聞こえた。彼もまたルフィと同じくゾロの幼少からの友人だった。

 ゾロは慌てて玄関まで友人を向えにいく。

 鼻の長い友人を目の端にとらえると、奇妙な光景があった。

 鼻の長い友人だけが家に来るはずだったのに。それなのに、彼以外にクラスの女子が2人いた。

 よくよく顔を見ると、たしか実行委員が同じだったような……気がゾロにはする。

 だいたいクラスの女子なんてろくに覚えていない。女子に興味は無いことはないが、いまは一人の女性――もちろんナミだ――のことで頭がいっぱいだったため気にしていなかった。

「ごめんなさい、急に。ウソップに聞いたらロロノア君の家で会議するっていうから、同席させてもらおうと思って。……迷惑かな?」

 片方の女子がおずおずとしゃべる。隣りでウソップは何やらニヤニヤしていた。声にはださず、口だけを動かして『よっ、色男! やっぱりゾロはもてるなァ』と面白そうだ。

 ゾロはキッとウソップに睨みをきかせる。そして困ったように天井をあおぎ頭をぽりぽりとかいた。

「いや。ま、あがれば。用事があるんだから」

「ありがとう」声をそろえて女子2人は頬を赤くして言った。


 ずらずらとゾロの部屋へと進む一同を、台所の影からチラリとナミは盗み見る。

「……なによ、ゾロってばもてるんじゃない」

 ポツリとナミはむくれて言った。

 ナミの目には女の子2人が顔を赤くしてゾロの後について行く姿ばかりが際立って見えた。

 







おわり


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