『どれだけ身が引き裂かれる思いがしたか……

 おれがもっと早く姉さんを探しに行けばよかったと、何度悔やんだことか。

 無事に帰っては来てくれたけど、心配だったんだ。気が狂うほどに。

 けれど、本当に無事でよかった。

 ……おかえりなさい』







04 どうしてもいいわけがしたいのなら
(ゾロ誕アンケート第一位「姉弟」)







「どうして?」

「だから……ただ送ってもらっただけよ」

「結果を聞いてるんじゃなくて、どうして素敵マユゲのヤロウが姉さんと一緒だったのかって聞いてるんだろ!」

「……聞こえてるわよ、怒鳴らなくてもいいじゃない。…………ただ送ってもらっただけなのに……」

 ナミは片肘をついて、ぶつぶつと答える。その表情はまるで怒られている子供のそれだった。

「ただ? ……ただって。それって、送ってもらっただけで、他に何もあのサンジの野郎とは何もなかったんだから、いいだろ。ってことか?」

 ゾロの声が次第に低く、怒気をはらんだものになる。

 ナミはそっぽを向いたまま答えなかった。

 ゾロは、キッっとナミを見すえて――

「姉さん。どうなんだ! 答えろよ」

「……あのね、さっきから何度同じこと言わせるのよ。さっきからありのまま話してるじゃない、なのに信じてくれないのはゾロ、あなたよ? あの日、道に迷ってたらたまたまサンジ君に出くわして、近所まで連れてきてもらったの。でも、家の近所なのに『ハイ、さよなら』じゃ悪いでしょう? だから、お茶でもどうぞってお誘いしたのよ。な、の、に、あんたってば、私とサンジ君のこと疑ってるの?」

「何度聞いても不自然だから聞き返してるんだろ、――ったく。あの野郎が姉さんみたいな女に手ださないで、帰らせてくれるわけないだろ! それに夜なんだぜ? ……絶対ありえない!」

「私みたいな女ってなによ?」

「あァ? 姉さんみたいな、綺麗な人ってことだよ。自覚あるのか?」

 矢つぎばやに繰り返される質問の流れに、ポロっとゾロはつい本音をもらしてしまった。

 だが、先ほどかららちのあかない会話にへきえきしてた為に、本音が吐露されたことに気づいていない。

 それとは反対に、ナミの顔はぼぼぼぼっと、瞬時に真っ赤にそまった。

 ナミは嫌味を返してゾロを慌てさせるつもりでいたが、逆にゾロの自然な言葉にナミが慌てる結果となった。

「っんな……」

 言葉にならない。口が金魚のようにパクパク開いては閉じ、を繰り返す。

 ゾロに見られたくないと思い、ナミはバッと机につっぷした。

 それに驚いたのはゾロで

「ね、姉さん? ……あ、わ、悪かったよ。な、泣かないでくれっ。頼む。おれ……姉さんに泣かれるのだけは昔からダメなんだ。ほら、この通り!」

 ゾロはナミが泣きだしたと勘違いして、慌ててナミに謝った。両手を頭の上であわせて拝むように。

「…………」

 ナミは無言。

 まさか、言えようがない。

 ゾロの――義弟の――言葉に動揺している自分がいるなんて。

 サンジにいわれた言葉よりも、ゾロに言われた言葉の方が嬉しいとも――決して言えない。

 それに……確かにゾロには話していないこともある。

 黙っていることが。

 2つも……

 一つは夜中帰りの遅いナミを心配して、ゾロがサンジの前から連れ去って帰ったとき、ナミはサンジのメールアドレスを無理やり手に握らされてた。

 それに、ナミが道に迷ったとき――



 あの夜――

 サンジは嬉しそうに、はにかみながら

『ナミさんみたいな綺麗な人が連絡くれるなんて嬉しいなァ〜』

『ごめんなさい。夜中に非常識で……。他に頼れる人いなくて』

『いやァ〜お会いできただけでも感激ですから。でも、彼氏は?』

『え? 彼氏? ……あっ。ゾロのことかしら? ……ううん違うのよ、ゾロは義弟、再婚相手の息子さん。だから彼氏じゃないんだけどね』

『彼氏じゃないんですか? おれ…………もっと早く声かけとけばよかったって後悔してたんです。彼氏ができる前にって』

 え? っとナミは目を丸くしてサンジを見た。

『ナミさんのことは以前から知ってたんです。ずっと見てたって言ったでしょ?』

『そうだったの? 早く言ってくれればよかったのに……』

『でも……彼氏がいないのなら…………』

『…………なに?』

『おれ…………に…………さ……い』

 ナミはそのときなんて思っていただろう? と自問した。

 私はその時サンジ君になんて答えただろう……。あまりにも突然だったから。

 けれど、

 肯定の答えをだした気がする。

 










つづく


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