『義姉さん――ナミ――はこりるって言葉を知らねェのか? ……この間遅くなって変な男にからまれたってのによ。おまけに、どうして、おれが、忠犬なんだ! ……ガウッ!』








03 通り過ぎた背中は疲れたように
   (ゾロ誕アンケート一位「姉弟」より)





 
 朝、ロロノア邸ではナミの呆れる声が響いた。

「やっだーゾロ、それブレザーよ? あはははっ。ゾロが寝ぼけてる! ……――あんたが着る制服は学ランでしょ。高校じゃなくて、中学にまた通うつもり?」

 目に涙を浮かべてナミは快活に笑う。

 ゾロはそれまで寝ぼけまなこだったが、自分の服装を見ると慌てて

「……――しまった。……っち、誰のせいで寝ぼけてるんだと思ってんだ。迷子になった義姉さんのせいだろうが……だりィ、今日学校休もっかな」

「ダメよ。急げばまだ学校に間に合うじゃない! ナミさんが目の黒いうちはズル休みなんてさせないんだから。ほらほら、さっさと着替える」

「自分だって好き勝手やってるくせに……」

「なにかいった?」

「……なにもないよ」

 ゾロはついに観念したように二階の自室へとつながる階段を重い足どりでのぼり始めた。

 そんなゾロの背中を見つめて、ナミはぶつぶつとつぶやく。

「ゾロが制服間違えるなんて……。何か変なもんでも食べたのかな?」







 ゾロが間違えて中学の制服を着るようになったわけには2つある――

 一つ目は、ゾロが高校の制服をかけるタンスの近くにいまでも中学の制服をそのままかけていたから。

 二つ目は、昨夜ナミの帰りがまた遅かったことにあった。

 昨夜あったことを思い出したゾロはブスっとした顔になり、いっそう不機嫌になった。

 ことの発端はナミが迷子になったことだった。

 昨夜ナミはコンビニに行こうと思って近道をした気でいたが、気づいたら迷っていたというのだ。

 再婚するまでナミは隣り町にいた。両親の再婚で一緒に暮すようになったので、ナミは今住んでいる地図が頭に入っていない。小さい頃はナミもいま住んでいる近くに居たことがあったが、ナミが引っ越してからもう10数年経っており、ナミの幼いときの記憶にある地図ではコンビニすら辿りつけなかった。

 迷っただけなら携帯でゾロを呼び出せばよかったのだが、ナミは『この間も向えに来てもらったし……ゾロには迷惑かけてるから、自力で帰ろう』と思ったらしくゾロに助けを求めなかった。

 そして

 帰りの遅いナミを心配して探しに行こうとしたゾロが玄関に立ったとき。

 ちょうどナミが帰ってきた。

 ほっとゾロが胸をなでおろしたのも束の間、次の瞬間には目が点になった。

 ナミが無事に家に帰ってきてくれたことはよかった。しかし、

 ナミの隣りには男の姿があった。

「……――っな!」

 遅いだけならまだしも、男を連れて帰ってくるなんて! ゾロはナミを怒鳴りそうになる気持ちを抑えてナミに事情を尋ねた。

 話を聞き終わると、ナミを連れてきてくれた男に礼を言おうと相手の顔を見る――

(どっかで見たことある顔だなァ……。――――あァっ!)

 ゾロは相手の顔を見たついでに嫌なことを思い出した。

 忘れるはずもなかった。それもそのはず、

 その男はこの間ナミをナンパしていたサンジとかいう男だった。

「……忠犬って君のことだったんだ」

 開口一番サンジはゾロを見つめてそう言った。

「ああ? なんだよ、忠犬って」

「君のことだよ、ゾロ君」

「それは言わないって言ったじゃない!」

 ナミが慌てて頬を染めてサンジをとめにはいる。

「先日はナンパされて嫌がっていたと思ってたのに、仲がいいんだ……へェ」ゾロは間髪いれずにトゲトゲしい口調でそう言い放つ。

 ナミとサンジがしゃべっているだけでもゾロにとって面白くない。不機嫌さがろこつに顔にでる。

(ナミがおれ以外の男と話すのも見たくないってのに……。……おれだけのナミであってほしい。けど――)

 そう思ったが、ゾロはふと考える。

 もし迷子になっていたナミがサンジに会わなかったら……?

 ナミは今も一人知らない道をさまよっていたことになる。どんなかたちにせよナミを救ってくれたサンジにケジメとして礼を述べるべきだとゾロは思った。

 ゾロは義理堅い、男気ある少年だった。

 スっと、腰を折って頭を下げ

「送ってくださって、有り難うございました」

「……――いや、ナミさんの為だからな」

 ゾロをからかうつもりでいたサンジだったが、礼を言われたことでふいをつかれた。

 からかう気持ちもなえだが、先日のことと今のことは別だと思い直し、

 サンジがずずいとゾロに顔を近づかせて、ナミには聞こえないようにボソっと

「……この間はどうも、あの時のかりはきっちり返させてもらうからな、覚悟しやがれ。な〜にが『俺の女だ』だ、ナミさんはおめェの姐さんだろうが! ちったァ遠慮しろ、シスコンめ」

 ゾロはよりいっそう眉間にしわを寄せて、怒気をはらませてサンジにつげた。

「へェー……やっぱり姉さん狙いなんだ。じゃァ――容赦はしねェ、返り討ちにしてやるよ。ナミが誰の女か、思いしらせてやる」

 目には見えない火花を散らす2人に、ナミはポツリといった。



「……そろそろ寝ていいかしら?」



 ゾロとサンジは互いをしばし睨んで、

「いちじ休戦だ、次こそは決着つけるからな! じゃ〜ナミさん、また今度」

「来なくていいけど。来るならこいよ……ま、おれが勝つけど」

 ふんっと言わんばかりにゾロは自室へ、サンジは外へと勢いよく2人はそれぞれナミに背を向けて引き上げていった。






「なんだかどっと疲れたわ……」



 ナミはうなだれて、吐き出すようにつぶやいた。










おわり


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