02 君ほど強情な人を僕は知らない 2
(ゾロ誕アンケート一位「姉弟」より)
中型バイクにまたがりナミの元へとゾロは急いでいた。
バイクの種類はネイキッド。オーソドックスで扱いやすく、教習車にも多く採用されていてよく見かける。ナミを連れて帰るには電車よりもバイクの方が早いと思い道路を走らせているのだが、
「さ、寒い……」
冷気が刺となって頬を通り過ぎる。
着替えるひまを惜しんで家を飛び出してきたゾロは普段着のままだった。
寒い夜のバイク走行は普段着では厳しい。
「……ナミは薄着してねェだろうな」
ゾロ自身は寒くて仕方なかったが、口からでた言葉は労わり。ナミのことで頭がいっぱいだった。
ゾロは一心不乱にバイクを走らせているのはいいが、肝心のナミの居場所を知らない。
だが、ゾロの顔にあせりの様子は見られなかった。
なぜなら――――
心配性のゾロは内緒で小型のGPSをナミのカバンに投げ込んだでいたからだった。
GPSとは、Grobal Positioning System(全地球測位システム)の略で、カーナビなどに広く使われている。
「へへ、でかした! おれ。こんなこともあろうかとナミのカバンに突っ込んどいてよかったぜ。さすがにナミのかばん触る訳にはいかないから投げ込むしかなくて不安だったけど……カーナビにちゃんと位置が出るってことは、見つかってないってことだよな!」
フルフェイスのヘルメットの中でゾロは一人ニヤリと口の端を持ち上げていた。
チラリとGPSを見ると、ナミがいる場所までもう少し。
ゾロは急く気持ちをなんとか抑えて、バイクを操る手に力を込めた。
◇◆◆
「アドレスだけでも教えてもらえないかなァ?」
「ごめんなさい、明日早いから……」
先ほどからナミはサンジと同じやりとりを繰り返していた。
「教えてくれたら、家まで送るからさ」
「結構よ、家まで来たら忠犬に噛まれると困るから」
「へェ〜犬飼ってるんだ。おれの所は猫飼ってるんだけど、これがまたワガママで……」
ナミの断りをサンジは話題をすりかえることでかわしていた。
そんなやりとりにいい加減ナミはうんざりといった表情だ。
(こういう人苦手なのよね……。変に口がまわる男って。だー……――もう! 蹴って逃げてやろうかな。本性バレても私は問題ないし、ね)
ナミの笑顔がだんだんひきつる。
サンジにありったけの文句を言おうと、ナミは考え始めた。
◇◆◇
ピコン……ピコン……ピコン。
ピピッっと短い間隔の点滅音がなり、GPSは沈黙した。
ナミがいる目的の場所まで着いたことを示したからだ。
ゾロはカチっと電源を切り、ヘルメットを外す。そして、
キョロキョロと辺りをせわしなく見つめた。
「……………………右いない」
「……………………左いない」
「……………………上いない」
「……………………あっ!」
ビューっと冷たい風がゾロの耳を駆け抜けていった。
月をおおう雲が風になびかれて、周囲を明るく照らす。
運良く視界が広がったことにより、ゾロは遠くの建物を見ることができた。
右斜め前方にシャレた店がゾロの目にとまった。その店の看板のてっぺんに、出るか出ないかぐらいの微妙なところで、ナミの亜麻色の髪がチラチラと見えた。
(あァ? 何やってんだ、あんな所で……。人違いか? ……いやいや、おれがナミを見間違えるわけないし……)
もう少しよく目を凝らして見ると、チラチラと見えるナミの後ろに、背の高い男と思われる影が動いているのを目撃した。
プッチーン。
ゾロは頭の中の血管が切れた音がハデに聞こえた気がした。
「だから早く帰れってあれほど言ってんのによ……くそ、事によっちゃ許さねェ」
心配していたことが現実となり、ゾロはナミの元へと歩を早めた。
自然と歩調が早くなる。
ナミの姿を近くで確認した途端――――
「おい、帰るぞ」
低く、鋭い声が口をついて辺りに響いた。
さきほどの心配はナミを見たことによって落ち着いた。ナミと男――やはり男だったが――はただ話をしていたらしい。
ゾロはささくれだった気持ちを沈めてナミを見た。
街灯をあびてゾロの体が闇夜に浮かぶ。
「ゾロ!」
それまでつくり笑顔だったナミの顔が一瞬強張ったようになったが、すぐにパっと輝いた。
「ゾロ……どうしたの? 私ビックリしちゃった」
「……心配だったから。向えに来たんだぜ。帰ろう?」
「え……。う、うん。有り難う」
心配して来てくれたという義弟の優しさにナミはどこか恥かしそうに照れた。
しかし、
その会話に割り込む声があがった。
「ちょっと……。ナミさんはおれと話してんの。おたくダレ?」
睨むようにして問い詰めるサンジに対して、ゾロはサンジの存在に初めて気がついたかのように、
「あァ、そうだったのか、悪い。……ナミはおれの女だから、馴れ馴れしくしないでくれ」
器械的な発言。
「んなっ! んなっ!」
ナミはその『おれの女』発言に二の句もつげない。
サンジも言葉が把握できておらず、口を金魚のようにパクパクと動かしているだけだ。
「ほら、この素敵マユゲがほうけてる間に帰るぞ」
ゾロはナミの耳元でボソっと小声で伝える。
吐息がかかるかいなかの距離に、ナミはバッと両手で耳を抑えて、コクコクとうなづくことしかできなかった。
先ほどのゾロの発言について文句をいおうとしたが、ナミは鼓動が早くなりそれどころではなかった。
「せ〜のっ!」
掛け声と共に、ゾロはナミの手を取りダっと2人でサンジの前から駆け出す。
「あ!」
というサンジの声を背中に受けるが、ゾロはバイクをとめてある道へと急いだ。
ナミを気づかいながら、つないだ手にいちべつをくれる。
(向えに来たんだから、このくらいのことは許されるよな?)
どうどうとナミの手をにぎるゾロは、前を見すえて走る。
――ナミから照れた顔を見られないように。
ゾロにひかれるかたちで走るナミ。
お酒がはいっているため多少足元がフラフラとしたがそのたびゾロが支えてくれた。
ナミにとって、
つかまれた手は大きくてつかみ方がぎこちなかったが……
……――その手はとても温かかった。
おわり
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