『はじめましてナミちゃん! ……って、もうずっと一緒だけどね、へへへ』






 ナミちゃんのリボン 2 
(2004年チョッパー誕生日企画)







 自称ビビ王女が、自分が開発したマジック・アイテム――どうみてもただのリボンに見える――を自身満々でナミちゃんに勧める。

「これはただのリボンじゃないんです。貴重なんです、珍しいんです!」

「って言われてもね……。なんの変哲もない真っ赤なリボンに見えるんだけど?」

「人間界の人に魔法って言ってもピンとこないのも仕方ないですよね。じゃあ、えっと名前聞き忘れてました。名前お聞きしてよろしいですか?」

「じゃあって、どういうわけよ。じゃあって。どうして名前が必要なのかしら?」

 名前を教えて契約する新手の詐欺かといぶかしむナミに、ビビは慌てて答えた。

「リ、リボンに使用者の名前を入れないと、魔法が働かないシステムなんです。ね、画期的でしょう?」

「なにが画期的なんだか」

「なにいってるんですか! もしも、他の人間に魔法の存在を知られたら、催眠術をかけてまた別の人をターゲットに選ばないといけないんです。それって面倒じゃないですか」

「面倒なだけかい」

「いえ、その、えっと。だ、だからリボンに名前を入れることで、もしも第三者が使用しても魔法は発動しない、というわけです」

 冷静につっこむナミにビビはしどろもどろ。

 うさんくさそうにビビを見るナミちゃんは

「ふーん。どんくさそうなあなたにしちゃあ、ナイスアイディアってところかしら」

 ナミちゃんは真っ赤なリボンを手に持って、しげしげと興味深そうにみてた。

 目がどこかキラキラと光るベリーに見えるんだけど。

 ナミちゃん……。このリボン売りとばす気でしょ?

 おれはナミちゃんの魂胆が見えて、溜息まじりに

「ナミちゃん、いい加減王女をからかうのやめなよ。ついでに名前も教えてあげればいいのに」

 と呟いていた。

 相当驚いたのだろう、ナミちゃんはギョッとしておれに視線を向けた。

「……なに、いまのカワイイ声」

「え? ああ、いきなり魔法って言われてもためらうと思って、……えっとナミさんでしたよね。ナミさんのことを一番よく知っているモノがお供としてつくんです」

「そんなこと聞いてるんじゃないの。だ・れ・の声かって聞いてるのよ、あなたの声……じゃないわよね?」

 すごみをきかせてビビ王女に詰め寄るナミちゃん。

 ……やめなよ、怖いって。

 キョロキョロと辺りを見回すナミちゃんは、おれにまだ気がついてない。

 ま、ナミちゃんの後ろにおれがいるんだから、見えないってこともあるけど。

 ビビはナミちゃんの気を荒立てないように、伺うように話す。

「ナミさんの場合は、ですね。そこのトナカイのぬいぐるみがお供のようです。あ、さっきはナミさんの名前教えてくれて有り難うね、トナカイ君」

 おれを紹介するように説明するビビは、ナミに話し掛けた後、可愛くおれに手を振った。

 バッと勢いよく後ろを振り向くナミちゃん。

「はじめましてナミちゃん! ……って、もうずっと一緒だけどね、へへへ」

 おれはニッコリと満面の笑みを浮かべて微笑んだ。






                   ◇◆◇





「じゃあ、リボンの被験者として同意してくれるんですね、あーよかった」

「被験者って言い方が気にくわないけど。んーまあね、チョパタと話せる、なんてオプションついてるならこっちとしても有り難いし。ね〜チョパタ」

「ん? おう、そうだな。ナミちゃん、おれがしっかり面倒見るから。ビビも安心してよ」

 肩の荷がおりてホッとしたビビと、頭に真っ赤なリボンをつけたナミちゃん、それにおれの3人(正確には、2人と1匹)は魔法のリボンのことで最終確認をしていた。

「ええ、チョパタ君がいてくれたら安心だわ。ナミさんだけじゃ……ちょっとね」

「ちょっと何? 心配とでも言いたいわけ?」

「な、なんでもないですよ」

「そう?」

「……もうナミちゃん。そうやって王女をからかうのやめなって。ビビも許してやって、ナミちゃん、からかってるけど王女のこと気にいったみたいだから」

「わかってますよ、ふふ。私も楽しいのでつい。では、魔法のリボンについての最後の確認です。しっかり覚えておいてくださいね。ま、箇条書きにして紙には残しておきますが」

 目元の緩まった優しい顔から一変して、ビビは真面目な顔で続けて話した。

「魔法のリボンはナミさん以外には使えません。さっき名前書いてもらったのはその為です。――たとえナミさん以外の人がリボンを使っても、魔法は使えないようになってます。けれど油断はしないで下さい。魔法の存在が一般人にばれたら、記憶は消します。チョパタ君とも、残念ですがお別れです。私と会う以前のしゃべれないぬいぐるみと、ナミさんの状態に戻ります。それがイヤなら……」

 ビビの言葉をナミが静かに引き継いだ。

「それがイヤなら、余計なことはするな。魔法の存在を知られないように行動する」

 コクンとビビが無言で頷いた。

「ナミちゃん、突っ走るのはやめてね」

 苦笑いで、おれはナミちゃんに言う。

「だ、誰が突っ走るもんですか。べー、チョパタのいじわる!」

 プイとそっぽを向いて腕を組むナミちゃんに、ビビがほうきを持って立ち上がり、窓の手すりに腰をかける。

「よいしょっと。じゃあ、もう私魔法の国に帰らないと。チョパタ、くれぐれもよろしくね。ナミさんも頑張って」

「おう、任せとけ!」

 ヒヅメをカンカンいわせて見送るおれの傍らで、ナミちゃんがせきをきったように慌てて

「ま、まって。肝心なこと聞き忘れてたわ。この魔法のリボンって、どんなことができるの?」

 きょとんとした顔のビビが、

「あ、いってませんでしたっけ? その魔法のリボンは……」

 ダンッ。

 ほうきにまたがり、2階のナミちゃんの部屋からビビは笑顔で空へとバッとジャンプした。

 下へ急落下したから、おれとナミちゃんは手すりにかじりつくように、慌てて窓の外を見たんだ。

「……その魔法のリボンは体が大きくなったり、小さくなったりできるんです。では、ごきげんよう」

 落ちたかと思ったけど、ビビは風の軌道に乗れたみたいで、元気にこちらに手を振ってきた。

 最後の言葉だけ王女っぽかったな、うん。

 しばらく呆然とビビが去って行く姿を見送って、ナミちゃんの顔を見上げてみた。

「うっ。な、なに考えてるの?」

「んふふ〜」

 静かなナミちゃんを下から見上げて、おれは背中に冷たいものを感じた。

 なぜかって? それは……ナミちゃんがイタズラを思いついた時に浮かべる顔だったからだよ。

 ニヤリと微笑んでいる姿に、おれは先が思いやられたよ。

 トホホ。

「何考えてるの?」

「んー、へへへ。ゾロおどかすいいアイディアが浮かんじゃった」

「だ、ダメだよ。魔法をイタズラに使うなんて!」

「別にイタズラに使うって言ってないじゃない。……ってかどうしてイタズラってわかるの?」

 その言い方って、イタズラを今からします。って言ってるもんじゃないか。

 ナミちゃん……。

 おれはヒヅメで頭を抱えた。

「なんか角が生えてるみたいに、頭がズキズキするよ、まったく」

「元から生えてるじゃない」

「んおぅ! そうだったのか!」

「ほらほら、くだらないこと言ってないで、ゾロの所へ行くわよ!」

「もう夜だよ、それにダメだって」

 魔法の規則より、今からゾロの所――家に行くってことに、おれはナミちゃんの身の危険先にを心配した。

「大丈夫、大丈夫。ちょっと行くだけだから。ほら」

「んもー。ちょっとだけだよ」

 文句をいいつつ、ビビにもらったリボンに関する規則の書かれた紙を背中にくくりつける。

 ナミちゃんの言い出したら聞かない性格はよくよく知ってたから、おれはバンザイしてナミちゃんに抱き上げてもらって、そして肩に乗せてもらったんだ。

 おれが肩に乗ったことを確認すると、ナミちゃんは部屋にあったシューズを履いて、木をつたって1階のある地上に下りた。

 手際がよすぎる。

 きっと、おれが見てないところでも、いつも部屋から抜け出してるんだろうなーきっと。

 だって、普通部屋にシューズ準備してあるわけないもん。

 おれの心配をよそに、ナミちゃん勢いよく夜の町に繰り出した。




 ああ、ゾロが気づく前に家に帰れますように。







つづく


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