『最近マネージャーが色々と相談に乗ってくれる。
それに相変わらず差入れもしてくれて、
とても感謝してるんだが
どうして優しくしてくれるんだ?
――わからねェ』
17 君がとっても好きだけど
(ゾロ誕アンケート第一位「姉弟」)
「ねえ、ゾロ君。遊園地行かない?」
机に突っ伏して寝ているゾロの顔をのぞきこむようにして、一人の女生徒が頬をホンノリ染めておずおずと尋(たず)ねた。
そこは放課後の教室で、2人以外はもう既に帰宅したのだろう、誰もいなかった。
直接顔に当たる夕日をうっとおしいそぶりで睨(にら)む。
別に夕日が悪いわけではないのだが。眩(まぶ)しいらしい。ゾロと呼ばれた少年――はボソリと
「遊園地? おごれるほど金ねェぞ。今独り暮らししてるし」
「えっ、ううん、もちろん! おごってもらおうなんて思ってないよ。昨日新聞屋さんから乗り放題のタダ券もらったの。どう? 都合悪い?」
ゾロの機嫌を損ねたくないが、遊園地に行きたいらしいことがうわずっている声からもわかる。
そんな態度に、ゾロは気を遣(つか)ってくれてる事が苦痛に感じなかった。むしろ用事があってもこの子の為に予定を別の日に回してもよいとさえ思える。
いつも気を遣ってもらっては、ゾロとしても彼女の存在が重いものとなっていただろうが――
気を遣うポイントを彼女は心得ていた。ゾロにとって気を回して欲しいときと、ほっておいて欲しいとき。その見極めが微妙なのだが、以前からマネージャーとしてゾロの行動を見てきた彼女だからこそできた芸当なのかもしれない。
マネージャー以上の気持ちを持ってゾロを見ていたことを、見られていた当の本人が知るすべはなかったが。
ふ、と優しい笑顔をマネージャーに向けて
「じゃァ、次の日曜にでも行くか。遊園地」
「え! いいの?」
「行きたいんだろうが。遊園地」
「うんうん!」
「おら。帰るんだろ、行くぞ、アカネ――」
差し出された無骨な手に、アカネと呼ばれたマネージャーはそっと手を乗せた。
◇◆◇
それはバイトが終わって、真っ暗な我が家へ帰ってきた直後。
シャララララン――……、シャラララン――……
携帯の着信を告げる音が静寂を破らないように静かに主張していた。
液晶に浮かび上がる時間は12時を示している。
「非常識なヤツね」
相手に聞こえるわけもないのだが、つい声をひそめてしまう。
適当に上着を脱ぎつつ、台所の今は使われていないイスにかける。
そして、自らもイスに座って、うな垂れるように、パカっと折りたたみ式の携帯の頭を持ち上げて、ついクセで通話のボタンを押す。
『もしもし、ナミさん? よかった……やっと電話つながったよ。あァ、夜中にごめん』
先ほどは時間が気になって相手の名前など見ていなかったが、確認しとけばよかったと後悔した。名前さえ見ておけば電話になんかでなかったのに。
『もしもーし? いまいい?』
(ええい、うっとおしい……)
ナミは口の中で文句を言ってから
「あ、サンジ君? こんばんは。いいわよ」
『ごめんね、ずっと昼から電話してたんだけど電波悪かったみたいでさ』
(電波はよかったわよ、きっと。何度もしつこい電話に電源切ってたのわたしだし)
「そうなの? ごめんなさいね、何度も電話してもらったみたいで……」
『いや、いいんだ。それより、日曜日出かけないか? 遊園地のチケットが手に入ってさ。どうかな?』
(わたしにバイト休めっていいたいのね。チケットあるけど、あとはわたし次第で行けるかどうか変わるってこと? 自己中かい)
日頃の寝不足と、お腹が減っているせいでナミの機嫌は悪い。口にこそ出さないが毒ばかりはいていた。けれど、それを口にしないのは、ひとえに気を張っていたおかげだろう。
「日曜……連れてってもえるの? 嬉しい」
はにかむように答えるナミの態度に気を良くしたのか、サンジは
『じゃあ、じゃあ、10時頃にナミさん家向かえに行くよ! ……早すぎないかな?』
「ええ、大丈夫。向かえに来てもらえるなんて有り難いわ」
『愛しい彼女の為ならね。じゃあ、夜中にごめん。おやすみ』
「おやすみなさい」
静かに通話を切るボタンを押して、電話が切れたことを確認するとナミは大きく溜息をついた。
「面倒ね、まったく」
(でも、思いっきり遊んで気を紛らわすのもいいかもしれない……。最近は家を出て行ったゾロのことばかりが頭を横切って。学校でもつい心配で目が追ってしまっていたのよね。
自然と目が……ゾロを追うの。
それに、最近ゾロの横にくっついているように見えるマネージャーを見るのも……疲れる)
「また今日も眠れないのかしら」
ナミはここ数日幾度となく呟いたセリフを唇にのせた。
つづく
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