『おれはどうしてこんなにも不器用なんだろうか?


 でも器用になりたくて必死にもがいてる自分が、


 まるで


 蜘蛛の巣に捕らわれた蝶のように思ってしまった……。


 自分から蜘蛛の巣に飛び込んだというのに』

 
 







16 嫌いになるのは簡単
(ゾロ誕アンケート第一位「姉弟」)














 差入れを持ってきたマネージャーを自宅に帰して、部屋にポツリンと佇むと、ゾロは考える時間があることに気がついた。

 いくら狭い部屋だからといっても、自分以外誰もいないと肌身に感じると物悲しく感じる。

「やること見つけるのって難しいな」

 ブスっと顔を崩してぼやいてみても言葉は返ってこない。

 掃除も、食器洗いも、今日の分の鍛錬も、

 すべて終わってしまった。

 というより、先ほど呼んでもないのに来たマネージャーがほとんどしてくれたのだが。

 そんなありがた迷惑なマネージャーを帰してしまったのは間違いだったのだろうか。

『そんな寂しそうな顔しないで、寂しいなら彼女にでも甘えればいいのに』

『そんなのいねェよ』

『……知ってる』

『え?』

 彼女の言葉はとても小さかったが、いかんせん狭い部屋なので訊ね返してみたもののゾロの耳にはハッキりと届いていた。

『ううん、なんでもないの』

 そう言ってペロリと舌をだしたマネージャーにゾロは苦虫を潰したような顔しかできなかった。

 単に戸惑っていたのだが。




(寂しいか)

 言葉にしたくない思いを胸中で唱える。

 バタリを仰向けに倒れて、頭の下で手を組む。

(だーわかんねェなァ、女心って!)

 いまいましげに天井を睨む。

 いや、天井ではなく、天上か。


 女心……


 女……


 ナミ……

 ゾロにとって、女とは姉であり、ナミであった。

 ナミと姉弟だという理不尽な関係に、大声で文句を言いたかった。


 ――でもいえなかった。

 いえるはずもない。

 苦しい恋をしたものだと自分自身思う。



 家を出て、一人で掃除して、ゴミ出しをして、洗濯を干して、たたんで。

 気分が紛れるかと思ったけれど、実際にはそうではなく、むしろナミに会えない事で眠れない日々が続いた。


 けれど、一人になってゾロは考える時間ができたことはよかった。


 ……と思った。
 
 いや、思い込んでいた。

 思い込んでいたからそこ、毎日眠れぬ日々が続いている。
 
 義姉にぶつけてきた、想いは――



 ゾロは引くのも愛だと悟った。

 押してばかりで迷惑かけたと。



 でも、

 それは、



 エゴだったのではないか。


 義姐だからこそ、どこかで2人の線は繋がれないのだと心の隅で自覚していたのだろうか。

 結局は、義姉とのままならぬ関係を……、義姐を好きでい続けることに疲れたのではないか、と。

 路上でナミが倒れた時、駆けつけたゾロはナミを失うかと思った。その事を思い出すと、あの時自分がどれほど辛かったか悟った。
 ナミに自分のことで倒れるほど心配かけたなら、自分もどれほどナミの辛い姿を見て疲れていたのかとわかったから。



 どこの国でも近親者との結婚を認める国は存在しない。
 
 ならばどこへ義姉をさらっていっても認めれることはない。

 それなら、いっそう――


 義姉を嫌いになろう――




(彼女探してみるかな)









おわり


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