『一人でとる食事って寂しいもんだな――

 って、なにいってんだ。

 これからずっと一人だってのに。慣れないといけねェよな……

 義姐さんの負担減らさねェと』









14 花は躊躇わず散ってしまった
     (ゾロ誕アンケート第一位「姉弟」)









 ヒューっと夜風が背中を撫でる。ガサガサと葉がこすれ気味悪いといったらない。

 公園義姉さんに別れを告げた夜。

 ただでさえ静かな場所なのに、2人ともしゃべらなくなった公園では沈黙がその場を支配していた。

 重苦しいがゾロにとって沈黙はむしろありがたかった。

 義姉に別れのことを渋られたら、苦渋の選択もできなくなる。

(ナミさんに何か言われたら……おれは家を出ていけなくなる。『出ていくことなんかない』などと言われた時には……)

 ゾロはジッと相手の細かい仕草も見逃さないように見つめた。

 うつむいているナミにはわからなかったが、ゾロのその表情はまるで今生の別れのようだ。



「…………」

 ナミは一言も話さない。

 どう言っていいのか、なにが起こったのかわからなかったから。

「もう遅いから今日は帰ろうぜ、な?」

 ゾロの気遣う声にコクリと頷く(うなづく)ことしかできなかった。





                     ◇◆◇





 カーブにさしかかると体をゾロの傾ける方へ合わせる。2人乗りのバイクでゾロが運転手、ナミが後ろに乗ってゾロにしがみついていた。

 以前迎えに来てもらった時もゾロにつかまってバイクに乗って家に帰ったが、今日はなぜが心臓がバクバクと脈打っていて、ゾロにも聞こえているのかなと思うと落ち着かない。

 そう考えるといたたまれなくて、ナミはゆっくりゾロから体を離そうと後ろへ体を引いた。

「キャッ」

 体を引こうとゾロから離れたナミの手をゾロがグイっと前へ引っ張る。そしてゾロのお腹の前で再び手を組ませた。

「悪ィ、義姉さん。イヤだろうけど後ろでバランス崩されると危ないんだ。もう少しで着くから我慢してくれ」

 ヘルメットをつけているので自然と声が大きくなる。

「そんなんじゃ……」

 ボソリと答えたナミの呟きはヘルメットの中でかき消えた。





                     ◇◆◇





 次の日は休日ということもあって、ゾロは朝から物件を見にでかけた。

「金かかるな」

 口にだしてみてはじめて実感したという感じ。

 今まで貯めていた貯金ではじめはなんとかいけそうだが、大学に入ってすぐにバイトをはじめないといけない。

 ゾロは剣道で国体の選手にまで選ばれたほどの実力を持っている。そうなるとほっておかないのが周りで。今まで有名どころの大学から特待生として入学の誘いを受けてきた。が、ゾロはすべてその誘いを断っている。


 義姐の傍にいたかったがために。


 けれど今となってはその意味もなくなったことだし、家をでると言った手前遠くの大学へ進路を決めようと考えていた。

 不動産をあたって、地方の物件情報をインターネットで調べてもらっている間、ゾロは所在なさげにソワソワしていた。

(寝れればそれでいいんだけどよ……。それにしても高いぜ、まったく。でも寮なんて便利な建物ない大学だしな)

 暫く地方の大学周辺で家を探そうとねばっていたが思っていたのとは違っていた。

 候補として考えていただけだったので、それほど残念ではなかったが。

 
 大学に入っても剣道をするつもりだったのであまりバイトは入れれないだろう。なら、なるべく金を節約して暮さなければ。

 頭をひねって考える。

 とパッとひらめくものがあった。

「そうだ!」

 きびすを返して、ゾロは家路へと向った。





                     ◇◆◇




 
 家に着いたゾロは自分の部屋の押入れをゴソゴソと何かを見つける為に探した。

 ごちゃごちゃと昔使っていた竹刀やら怪獣が床に並べれていく様は、まるで子供のようだ。

 暫くすると――

 しわがよって読みにくくはなっているが、生前祖父がくれた空家の権利書を見つけ出した。

(おしっ、あったあった。たしか――大学から通えない距離じゃなかったんだよな、この家。じーさんいいもん、ありがとな)

 もう亡くなっていた祖父にシンミリと感謝するゾロの顔はあくまでニマーっと笑っていたが。

 ゾロが押入れの奥から見つけ出してきたのは今は誰も使っていない家の権利書。祖父が亡くなった際、小さい家だからゾロの遊び場にでもすればいいと書き残していた文を、ゾロの父親が律儀にも約束を守ったのである。

(ま、ここの家からも近いって言えば近いが……文句も言ってられねェしな。贅沢言ってられねェし)

 広げている権利書に記された住所は、家からさほど離れていなかったが、文句など言っていられない。

 義姐から早く離れねェとな――

 ふっと微笑むように、しかし眉ねがよっていて、寂しのだろうか。

 そんなゾロの不器用な顔を見る人は誰も傍にいない。

 誰も。

「荷物まとめるか……」

 ポツリと呟いた言葉は虚しく溶けていく。









おわり



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