『言って、困らせて、泣かせて。
あなたには辛い思いばかりさせてた。
かえりみる余裕なんておれにはなかったから、考えるのが遅くなってしまったんだ。
少し考えればわかることなのによ……
おれの一言で義姉さんが開放されるなら、
おれは喜んで別れの言葉をいおう』
13 君の帰る場所
(ゾロ誕アンケート第一位「姉弟」)
グィっと缶ビールを飲み干した姿を見て、ゾロはポカンと口を開けて、呆れたように
「あんた酒豪だったのか……」
「バ、バカ。ちょっと1缶飲んだだけじゃない。そんなので酒豪って言わないわよ」
ついいつものくせで缶ビールをコクコクとのどを潤すように飲み干したナミは、最近義弟になったゾロに苦しい言い訳をしていた。
ゾロが義弟になったのは1週間前――
両親に紹介されてから『じゃあ、新婚旅行に行くから2人で暮してね』といわれて暮らし始めたのだが。
新しい家族に自分が酒豪だということを、酔うことはなかったが義姉が酒豪だなんて世間体が悪い。そう思ったナミは焦る。
ついつい酒豪だという本性がでそうになってナミは隠そうと必死なのだが、ゾロは呆れた表情のまま。
「いや……今のはかなり飲みなれてる感じだったぜ。やるな義姉さん」
ニヤリといたずらが成功したような顔つきになったゾロは義姉の酒豪を確信した口調で断言した。
ゾロの不敵な顔を見たナミは
「あーもう、降参。ええ、そうよ。酒豪ですよ! 酒には酔わないの。というより酔ったことないって言った方がしっくりくるかしら」
「別に責めてねェぜ。ようやく対等に飲めそうな相手に巡り会ったなって思ってな」
「へえ〜あんたも酒豪ってわけ。――え? ってあんたまだ高校生でしょう!」
◇◆◇
あの後義姉をなだめるのは大変だったな、とゾロは満天の星空を見上げてそう思った。
思えばあの出来事があったからこそ、おれは義姉さんと親しくなれたんだ。
あの時はまさかあんな酒豪に惚れるなんて思ってなかったし、義姉さんの一言でこんなに心が張り裂けそうになるとは予測もできなかった。
でも、おれが義姉さんを好きでいることで――
義姉さんが体調を壊すなら……
義姉さんがおれに縛られているなら……
おれは考えねェといけねェよな。
身の振り方を。
都合のいいときだけ子供の振りはできねェからよ。
ゾロは見上げていた星空を名残惜しそうに暫く見つめた後、ゆっくりとナミを愛おしそうに見つめて、けれど愛おしそうな目にならないように気をつけて
「義姉さん……そうか、付き合ってるって……聞いて安心したよ」
「…………」
「義姉さ……、いや、ナミ……」
「え……?」
唐突に名前で呼ばれたナミは反射的にゾロを見つめた。名前で呼ばれたことに自信が持てなかったことと、相手を見て本当に名前を呼ばれたのか確認するために。
「ナミの帰る場所はおれが帰る場所でもあるんだ。それは俺達が家族だからな……けど、家に帰りづらいなら、ナミがこれ以上俺のことで病んでほしくないから……」
ゾロは眉を寄せて、苦しそうに続けた。
「だから、俺は家をでようと思う」
「ど、うして……」
見開かれたナミの目はなにも写さない。
ゾロ以外には……
優しい顔のゾロ以外は。
「…………」
問いかけてもゾロは微笑むだけで答えない。
「ねえ、どうして? ゾロ!」
服を引きちぎりそうな勢いで引っ張るも、ゾロは理由を――あるいは言い訳を――繰り返さない。
うつむくナミはただ呆然とするしかなかった。
「義姉さん……」
やっと話し掛けられたと思ったら、今度は義姉≠ナ。
なに――
「ん……」
続けようと思った問いは、重ねられた唇で聞けなかった。
熱い思いのこもった口づけの後にゾロは義姉を見据えて言った。
「ナミさん……さよなら」
おわり
←素材は『創天』様からお借りしました