『心が張り裂けそうだという思いを味わったのは何度目か……
一度目は助けがあったけど、そうそう二度目は上手くいかないって決まってる。
それをわかってて、おれを試そうとしてるのか。
迎えにこれるものなら、迎えにこいと――』
11 月の光に身体は冷える
(ゾロ誕アンケート第一位「姉弟」)
姐さんにかけた電話は結局一度しかつながらなかった。
一方的に切られた電話に何度リダイヤルをかけても、姐さんはその後一度も電話にでることはなかったのだ。
時計を見ると深夜を過ぎていて、先ほど夕食の用意ができたのに時間の流れは早いなとゾロはなにげなく感じた。
何度も繰り返してかけるも、その内アナウンスが変わった。
『電波の届かない所におられるか――電源が入っていないためかかりません』
「冗談じゃねェぞ」
心配だから彼氏――サンジに送ってもらえと忠告したのに。
『子供じゃないのよ!』
ナミの声が悲痛な叫びを伴って思い出される。
なんだって素直に「もうすぐ家に帰る」とでもいえないのだろう。
あの言い方ではまるでダダをこねている子供そのもので、ゾロはつい吹き出してしまった。
けれど心配してばかりはいられない。
探さないといけないのだ。
「嫌っていっても引きずって帰ってこねェと……危ねェだろうが」
ギリっと唇をかんで、素早くナミを探すためにGPSの電源を入れた。
GPSとは、Grobal Positioning System(全地球測位システム)の略で、カーナビなどに広く使われている。以前も深夜を過ぎても帰ってこないナミを向かえに使ったことがあったが、まさかまた役に立とうとは。
ゾロはいささか皮肉な笑みを浮かべてバイクにまたがった。
◇◆◇
(こんな所に……本当にいるのか?)
GPSによって義姉の居場所が手にとるようにわかったゾロはすぐバイクを走らせ義姉の元へ向った。降りたった公演で寂れていて電気も点いているかどうかあやしい感じで薄暗く、ナミがいるとはとても思えなかったが。
さとい義姉さんのことだ、もしかしたら途中でGPSの存在に気づいて発信機をこの公園で捨てたんじゃねェか?
そんな疑問もわいてきたがすぐさま打消し、ゆっくりと歩を進めた。
(泣き声……聞こえないな)
ゾロは義姉の様子が手にとるようにわかったつもりで、泣き声がしないか耳をすませていた。
義姉ならこんな寂しくて薄暗い場所は怖くてたまらないはずだと。
すっかり小さい時の義姉を思い出していたゾロはGPSのいざなうまま進む。
GPSが点滅するあたりで周囲をよくよく観察してみた。
その目は獲物を捕らえるかのようなどうもうな目だったが、本人は自覚していない。
その目が一点を食い入るように見つめる。
2つ吊らしたブランコの手前にナミはうつむいてブランコに腰をかけていた。
ゆっくりと近寄って
「ナ……義姉さん、もういいだろ帰ろうぜ」
突然かけられた言葉に驚いたのか、はっと身を強張らせて伺うように相手を見上げた。
「…………ゾロ」
「なァ……おかゆ用意したしよ。体辛いんだろ?」
「……あなた……一人で帰りなさい。それにおかゆが必要なのはゾロでしょう。わたしは……たいしたことないから大丈夫」
とても仮病だとナミはいえなかった。義弟の優しい心遣いに、ますます自分の義弟への気遣いのなさを突きつけられているようで。
ゾロが体調が悪いことをロビンから聞いていたのだから病人食を作ってやらなければいけないのはわたしなのに。
病人に料理つくってもらって、あまつ気遣いまでしてもらうなんて。
なんてイタラナイ義姉なんだろう……。
ゾロはナミのそんな考えを突っぱねるように
「食事は気が向いたから作った、それまでのことだ。でも、義姉さんが家に帰らないと心配なんだよっ! ダダこねてねェで、帰ろうぜ」
ゾロに心を見透かされたようで、ナミはサッと顔が赤らむ。
「うるさいってのよ! 大きなお世話……わたしは大丈夫だから」
勢いづいて叫んだ言葉も最後には口の中でボソボソというだけ。
「…………かよ」
「え?」
「ほんとうに大丈夫と思ってんのかよ」
「ええ」
ナミは努めて明るく
「知らないかもしれないけど、わたし武術得意よ。普段は一般人相手に使っちゃいけないけど。襲われそうになったら正当防衛でしょう?」
「バカやろう!」
「な、なによ?」
「襲われるまで待つな……それからじゃ遅いんだぞ!」
叫ぶかいなか、ゾロは地を蹴って座った姿勢のナミを痛いほどに抱きしめた。
その顔には危機迫るものがある。
「は、放して……」
「ダメだ。ほどけねェくせに」
2人を包む光は乏しくて、依然闇が2人をおおったままだ。
おわり
←素材は『創天』様からお借りしました