(1500HITキリバン・リクエスト:『ゾロナミ初接吻物語』 東 沙夜 様へ)
最強タッグの恐さゆえ そのA





 ナミが男部屋をノックすると、すぐにチョッパーの声が返ってきた。

 どこか脅えた声音で

「うおっ、ナ、ナミ……。ちゃんと掃除してるぞ! だ、だから倉庫には行かなくていいぞ! うん! 食料庫にもだ! ええっと……後は……」

 指を折って数えるチョッパーに、手をずいとチョッパーの顔の前に掲げることでナミは言葉をさえぎった。

 そのまま優しい微笑みをそえて言い聞かすように語る。

「チョッパー……。チョッパーはちゃんと掃除してたでしょ? じゃあ……他のメンバーのことは気にしなくていいのよ。チョッパーはいい子なんだから」

 ナミの言葉を聞くや否や、チョッパーは暗かった表情をパァ〜っと明るくさせて、

「ほ、本当か? おれちゃんと掃除してたからエライ? くく、えへへ〜ナミにほめられちゃったぞ」

「ええ、えらいわチョッパー。じゃあ、悪い他のメンバーがどこに行ったか教えてくれる?」

「え! ……そ、それはいえねェ。男の約束だ! あ、ウソップは奥でホコリと格闘中だよ」

 チョッパーの後ろから「ゴホゴホ……なんだよこれ〜。っておれ様のか、あはは」とウソップの独白が聞こえてくる。

 ウソップは本当にチョッパーと共に掃除をしているようで、ひとり言が時々聞こえてきた。

 ナミはさも残念そうに

「そう……残念ね。教えてくれたら ”ナミちゃん印100%みかんジュース” 飲ませてあげたのに……」

「ゾロは倉庫にいるよ! サンジは仕込みがあるから料理してるぞ。……ルフィは食料探しにふらふらしてる!」

 素早くハキハキとチョッパーは目を輝かせて答えた。

「そう。有り難うチョパー。今度ジュースおごるわね」

「やったァー」

 ナミの100パーセントみかんジュースがよほど美味しいらしく、チョッパーはピョンピョン跳んだり、はねたりを繰り返す。

 くるりときびすを返して小躍りしているチョッパーのいる男部屋を後にした。





                    ◇◆◇





「こんな所にいた……んも〜寝てるしって、いつものことか」

 ナミは倉庫で熟睡するゾロを発見した。

 たるを背もたれにしてゾロは刀を大事そうに抱えて寝ていた。

「毎晩遅いから……寝たりないのかしら?」

 むむと、眉間にしわをよせてナミはゾロの顔を観察する。

 急に名案を思いついたようで、ポンと手を打って

「…………誰もいないし、代わりに掃除しようかな。報酬はゾロのカワイイ寝顔ってことで、依頼人は私。よし!」

 気合を入れたのもそこそこに、ナミは勢いよく一歩を踏み出した。

 ――いや、踏み出そうとした。

 けれど、

「キャ」

 高いヒールをはいていたために、ナミは足がぐねっとくねり、バランスを崩して倒れそうになる!

 

 倒れる!




 そう思ったが、いつまでも床に体をぶつけることはなかった。

 ズキズキと痛むのはむしろ……腕とお尻。

 それに、なんだか背中が温かかった。

 ナミは痛む腕に視線を落とす。

「えっ――?」

「ったく……大丈夫か?」

 ゾロの低くて遠くまで響きそうな声がナミのすぐ耳元で聞こえた。

「な、ん、……ど、どうしてゾロが……」

「あァ? おまえが倒れたからおれが慌てて腕引っ張ったけど、強く引っ張りすぎて逆におれの方におまえが倒れ込んで、床に座ってんだろ。誰のせいだ、誰の」

「………………ありがとう。ごめんね、ゾロ」

「んあ? …………お、おぅ。なんか素直すぎるのも恐ェな」

「………………そうね、そうよ!」

「な、なんだ急に……」

 さっきまで素直でしおらしいナミだったが、急にゾロの一言で活力をえたように言葉に力がこもり、そのギャップにゾロは舌をまいた。

 ナミは首をぐるりとゾロに向けてまくしたてる。

「元はといえば、ゾロがちゃんと倉庫掃除しておけば、私が掃除しようって思わなかったの! 転んだのゾロの責任じゃない!」

「あァ? おまえが勝手におれの寝顔見て掃除しようとしたんだろうが、知るかよ」

「え? ……なによ寝顔見てたこと知ってるんじゃない。たぬき寝入りしてたんでしょ? もう、サイテー。起きてるなら、起きてるって言ってよね」

「……じゃァ、どうすればいいんだよ」

「利子でも増やそうかな?」

 ゾロは一瞬ムっとした表情になったが

「じゃァ……」

 といってナミの顔に手を添えて

 
 
 ナミの口に自らの口を重ねた。


 最初は浅く…………次第に深く……


 ナミは始めこそ抵抗していたが、ゾロは逃がしてはくれなかった。


 どれほど時間がたっただろう、口づけを交わしていた時間は数秒だったかもしれないが、ナミにとってそれは永遠とも呼べるときだった。

 ゾロがゆっくりナミから名残惜しそうに離れると

「これで利子は減ったかよ?」

「…………バカ」

 ナミは照れながら続けてピシャリと言い放つ。

「――……そんな訳あるわけないわよ! 増えたに決まってるじゃない! あんな……初めてなのに……息もできないのは……利子倍増。普通に働いても返せないわね」

「な、な、なんでだよ?」

「べつになんでもないわ。ゾロに一生利子分返してもらうために付きまとうんだから!」

「それって…………。…………ん?」

 ゾロは赤い顔を扉の向こうに感じる人影に向かって視線を送る。

「なに?」

 ナミも先ほどまでうろたえていたゾロが急に鋭い視線を送ったことを不信に思い、口をつぐむ。

 ゾロはナミをぎゅっと抱きなおして、ニヤリと口を持ち上げて

「――……ウソップ。今、見たことは墓の下に入るまで誰にも言うんじゃねェぞ」

 ゾロの言葉に、倉庫の扉の外にいるのがウソップだとわかったナミも、ニヤリと微笑んで言葉をつけたす。

「今のこと……他の人に言ったら利子増やすわよ?」

 扉の向こう側で浮かべられている顔の恐さを想像して、ウソップは足がガタガタ震えるのがとまらなかった。

 ロビンにナミ宛のことづけを頼まれて、船内を歩き回っていたウソップはこの船の中で一番見てはいけない場面を見てしまった。

 後から思うと、ロビンのイタズラ心だったのかもしれないが。

 ウソップは見えないはずのゾロとナミの野獣の顔と、二コリと不気味に微笑んだ顔がリアルに頭に描かれていた。

 







 そして――

 その誰にも言えない事実をウソップは日記に書き残した。

 だが、船内において置くと誰かに見られる心配があるため、信用のおけるビビにあずけることにしたのだ。



『ビビへ。そういう訳だから、この本はどこか本の多い場所にでも紛れ込ませといてくれ!  偉大なキャプテン・ウソップより』

 と最後はそんな締めくくりで日記は終わっていた。

「すご〜い。Mr.ブシドーとナミさんが……。お、大人だわ」

 少女は頬を染め大人びた訳知り顔でいう。

「……こんな内容だとウソップさんも必死になるわよね。うんうん。私がちゃんと隠すから、心配しないでくださいね!」

「なにが心配しないの?」

 唐突に少女の背後から声がかけられた。

 ギクリと体を硬直させて少女はゆっくりと声のするほうへと向き直る。

 少女の視線の先には――――

 少女と瓜二つの顔をした――いや、少女がその女性に似ているといったほうがいい。なにせ、その女性の方が歳を重ねていたからだ。

 ふわりとウェーブのかかった髪は腰までのばされ、真摯な眼差しはそれでいて優しげに少女を見つめる。

 今はコルセットを外しているのだろう。ゆったりとしたドレスを身にまとっていた。

「お母様……ご機嫌うるわしく」

「ええ、ミサもかわりなく」

 その女性は少女の母親。王族の一人で、

 現王――女帝についたビビであった。

 この少女はビビの娘――ミサ。現王の一人娘だ。

 コーザが王につく案もでたが、本人が自体すると共に前王の「私はどちらが王についても構わない。向いてる方が、やりたい者がなればいい」との言葉に、ビビが初の女帝になることに挙手したのである。



 ……――女帝が誕生するまでの話はまた別の話。


「お食事の時間よ、帰りましょう。お父様もお待ちよ」

「はい。……あ、ちょっと待ってお母様」



 ミサは長いポニーテールを揺らして、『キャプテン・ウソップ冒険記』をまた置いてあった場所に静かに本を戻した。

「また明日ね……」

 本に別れを告げるとゆったりとした歩きでビビと図書館を後にした。














おわり





<あとがき>
 1500HIT踏んだよ! と東 沙夜さんに声をかけていただきました☆ (だいぶ前に;) 申し訳ないです; 『ゾロナミ初接吻物語』 でリクエストを頂いた時に、ゾロが強引なくらいがいいな〜(笑)と勝手に想像しまして。それをウソップが見てたけど、他の人に言えない。じゃあ、日記に書くか。という具合に話が膨らみすぎて、こんなに長くなってしまいました(汗) 
 でも、ビビの娘ミサはどうしても入れたくて(ワガママ;)切れない話だったんです。まとめられない力のなさが恥かしいですが、少しでも楽しんでもらえれば幸いです。

  東っちどうでしょう?(汗) またのリクエストお待ちしてますv

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