ナミは足早に道路を駆ける。


 時々は空にも目を向けつつ狼煙(のろし)がのぼる方向へと髪を振り乱して、けれども息があがることなく呼吸を調節することも忘れない。

「まだ着かないの!? もうっ」

 狼煙があげられている場所へと急がなければ。
 
 危険が起こっている場所が特定できなくなる。強い風が吹いたら狼煙などあっという間に掻き消えて意味をなさなくなるし、それに可愛い教え子達がナミが道を迷ってる間にどうなるかわかったもんじゃない。喧嘩の相手の数も、生徒の怪我具合も、なにも情報がないのだ。


 狼煙は危険を知らせるもの。


 だから。

 非常時以外は送らないこと。
 が暗黙の了解となっていた。もしも冗談で使われたとあっては迷惑この上ないからである。

 だからこそ、

 つい気持ちばかりが早まってしまう。

「おっと、チッ……」

 路面の出っ張りにつまづく。

 空を見上げながら道を駆け抜ける為気を散じると足元がおぼつかなくなる。たたらを踏んで体勢を立て直すと、少し息を整えるために足をとめた。「ハッハッハ……」と吐き出す息に意識を集中してみる、そして狼煙があげられていると思われる場所を推測してみた。

「…………」

 立ち止まって呼吸を整えたからだろうか、脳内の冷静な部分がヒントをくれた。今走っている道は見覚えがあると。

「この道は……まさか。……わかった!」

 視線を真っすぐ定める。

 場所に心当たりがあるのだろう、その表情に迷いはなく、空を見上げることなく駆けていく。


























 ナミが学校を飛び出すように駆け出して行った少し後の事――

 ロロノアも遅れて外へと飛び出した。土煙を巻き上げながら運動場を突っ切っていく。先ほど私服の女が駆け出して行った方向へと。

 目前には人一人がやっと通れるくらいの隙間しか開いてない門がまるで邪魔をするかのように行く手を阻んでいた。もうとっくに下校時間が過ぎているのだから門が閉まっていたとしても文句が言えないので、仕方がないといえばしかたがないが。

 寝ぼけまなこの目をゴシゴシと乱暴にこすり、先ほど見た光景を必死に思い出す。

 記憶を辿るように視線を泳がす。

 ――女、

 ――私服、

 ――橙色の髪、

 ――切れのある走り。

 脳内をフル回転。

 去って行った女の走りに合わせるように、ロロノア・ゾロは自分と彼女を重ねるイメージを浮かべる。

 彼女ならどちらに曲がるか、彼女自身になった気持ちで。

 目を細めるようにして、眉がこれでもか、というほど歪んだ。そしてすぐにニタリと不敵に笑む。

 そうして彼は曲がる方向を決めた。

「確か右に曲がったよな。よし!」

 気合いを込めてロロノア・ゾロは勢いよく門をくぐると、左へと体重を傾けて地面を豪快に踏み鳴らす。その走り方に無駄はない。少しでもナミ――と思われる女――に追いつく為に。


 だが――

 間違えて道を進んでいる事に本人は最後まで気づかないまま。

 駆ける。

 駆ける。

 ただひたすらに一心に。
 




                     ◇◆◇





「あんた達大丈夫!?」

 
 バクバクと、今にも飛び出してきそうになる心臓をなだめつつナミは現状を把握すべく目を転じた。
 
 見開かれた目に映るのは、ピクリとも動かない教え子の姿だった。慌てて一番手前にいた生徒の元へと駆け寄り、スーツに土がつくことも厭(いと)わず地面に手をついて耳元へ声をかける。

「しっかりしなさい!」

 脳震盪(のうしんとう)をおこしてはいないだろうか、骨折などしていないだろうか。揺すって言葉が返されるならいくらでも揺するのに。けれどそういう訳にはいかない。

 だから余計に心配で気が気ではない。一刻も早く医者に診せるのが最善の選択である事は重々承知だ。ナミが生徒を連れて医者へと向かいたいのはやまやまだったが、ざっと見渡しても10名ほど地に蹲(うずく)っている。とてもじゃないがナミ1人で運べはしないだろう。せめて自ら立って歩けるヤツがいれば。肩をかしあって病院へと送り出せるのに。

 苦い気持ちからか、自然とかける声にも力がこもる。

 そんなナミの力ある声に反応してか、地面に体を沈めている男子生徒の顔が辛そうにもたげる。焦点の合わない目で声が聞こえた方向へ――空を探す。目の上には紫色の腫れが視力を低下させているのだろう、制服は土まみれ、ところどころ擦りきれて血が染みこんでいた。他の生徒も立てないほど痛めつけられている姿から考えると、どの生徒も、似たような怪我のようで立てないらしい。


 
 ――痛々しい。



 そう思った。喧嘩に負けてだらしがない、なんて言わない。むしろよくも自分の可愛い教え子達に怪我させてくれたなと、静かな怒りが込上げてきて胃を冷たくギュっと締め付ける。



「誰だ、てめェ?」

 それまで黙って成り行きを見ていた他校の生徒が、突然の訪問者に殺気だった声で不躾(ぶしつけ)に投げられた。茶色く斑(まだら)に染められた髪が印象的で、かつ丸いサングラスをかけている。今時流行りそうもないサングラスだ。

 立っている生徒はナミの学校とは違う生徒のようで、学校間の抗争だと想像がついた。

 が、地に伏し動けない状態でいるのはナミの生徒で、他校の生徒ではない。服には血や土がついていないから、一方的に殴られたんだろう。でも自分の生徒達はボコボコにされている。なにか訳でもあるんだろうか、何かひっかかり、ナミは小声で反応を見せた生徒に聞いた。

「動ける? ――それと、どうしてあんた達だけボコボコなのよ、やり返せばよかったじゃない」

 アハハと力なく笑って、生徒はナミを仕方ないなあという目で見つめた。

「あんたが喧嘩禁止(けんかきんし)したんだろ?」

「……――そうだったわね」

 以前、ルフィが中心となって校内の抗争があり、あまりにも生傷の絶えなかった生徒達を見かねて「喧嘩禁止だからね!」とルフィを倒した後で注意したのはナミだった。――ボス的ルフィを倒さないと誰も話すら聞こうとしなかったからだ、ルフィを倒して黙らせたのは仕方がない。一撃を入れたくらいで倒れたのには驚いたものだが。あんなにもやんちゃな子達が自分の言いつけを守って殴られるだけだったなんて。ナミは心苦しい気持ちを味わっていた。

「もう楽しい会話は終わったか?」

 くっくっくとからかうように丸サングラスが声をかけてきた。「女に心配されるなんておまえらも落ちぶれたな!」小馬鹿にしたように、なァと後ろを振り返って仲間と共にゲラゲラと笑った。

ナミの脳内でプチンと何かが弾ける音が確実に響いた。

「楽しい――だと?」

「あァ?」

「――……い、だよ」

「あァ? 聞こえねェって」

「こいつらの先生だって言ったんだよ。――おまえら今から反省しても遅いからな。容赦はなし、だ」

 何だ? この――と言葉を続ける前に、顔面に鉄拳が繰り出され、男はうずくまるように前のりに倒れた。砕(くだ)けたサングラスが地面に散らばる。

 勢いそのままにナミは体を回転させ、その反動をもって男の近くにいた別の生徒に裏拳を叩きこむ。

 後ろで余裕をかましていたガッシリした体格の学生達は、小柄な女に仲間がのされたという事に始めは「冗談だろ?」と仲間に声をかけるも、倒れたまま白目をむいている仲間の状態に怒りを露わにさせた。

「くそっ、このアマ」

 男達はいっせいに地を蹴りナミに跳びかかった。

 だが、ナミはそれを最小限の動きでサッと避け、相手の力の流れを利用して逆に打撃を1人、また1人へと加える。合気道の技かと思われたがそうではなく、その流れを組み込んだナミのオリジナルの技のようだ。これでは予測がつきにくい。あたり前だが練習で行う型の動きと喧嘩は違う、前者は礼儀と節度を持って行うが、後者は喧嘩でのルールしか存在しない。だがそれも、律儀なヤツが少なくなった昨今、今では喧嘩といえば何でもありのような雰囲気がある。

(何か棒みたいな物があったらよかったんだけど――贅沢(ぜいたく)いってられない、か)

 本気になった人は恐い。容赦しないのはナミも同じだったが、いかんせん相手の方が数が多い。だからナミも気を抜く事はしない。可愛い教え子達にケガさせたクソガキ相手に他校の生徒だからと気を使う必要はない。後の事なんか今は考えない。


 『売られた喧嘩は倍にして返す』これがお嬢ナミのもっとうだった。


 ナミの瞳に険が宿り、軽く拳を握って(こぶしをにぎって)構えをとる。

「幼稚園じゃあるまいし……お遊戯してんじゃねェぞ。おい、さっさとかかってこいよ」

 静かに、だがよく通る声でナミはニヤリと意地悪く微笑んだ。





                     ◇◆◇





 パンパンと埃(ほこり)を払うような仕草でナミは地面に蹲(うずくま)っている男子生徒に冷たい視線を投げる。いや、ナミの手によって這(は)い蹲(ば)らせたと言った方が正しいだろうか。

 とうの昔に意識を手放している者や、鳩尾(みぞおち)に蹴(け)りを入れられたからだろうか、腹を抱えるようにして地面に蹲(うずくま)り、嘔吐(おうと)を繰り返す者までいた。皆傷だらけで立っているのはナミ独り。それも無傷だ。

「おまえらこれに懲(こ)りたら、もうウチの生徒に手出すんじゃねえぞ。わかったな」

「……………………」

 誰1人返事がない。虫の居所が悪いナミはむんずと近くにいたやつの襟(えり)を掴むと、耳に再度ドスの聞いた声でいい聞かせた。

「わかったな、って言ってんだ。返事くらいしな」

「…………わ、わかりました」

 視線を反らす生徒にナミはフンと鼻をならして解放してやる。さ、次は怪我をした生徒を病院へと運ぶ為携帯を取り出そうとポケットの中に手をつっこんだ――

その時、背後からナミへと向かって襲いかかる影がむくりとふらつきながら立ち上がり、駆け出した。

「……あ、もしもし、ナミだけど。うちにいる若いもん人数集めてくれないかしら? なにおどおどしてんのよ?」

 ナミは気づいていない。

 しめた、と言わんばかりに不敵に笑った生徒はナミ目掛けて右手を大きく振りかぶった。


 その時――――!


「女独りに不意打ちか?」


 声と共に重く鈍い打撃音がナミの耳に飛び込んだ。

 誰!? とナミが背後を振り返った時には人がのされていた。一発で相手を地に伏させるなんて。

 なんて……

 無駄がないんだろう。鮮やかな手際で、新たな脅威だと認識する前に感心してしまった。相手を足元からじっくりと観察しながら軽く拳を握りしめる――いつでも反撃できるように。

「――……ロ、ロノア?」

 ゆっくりと視線をあげると、そこにはよく見知った生徒が肩を怒らせて立っていた。投げられる視線は厳しいもので、悪い事をした気分になってしまう。なんとなく昔姉に怒られた時も今のような居た堪れなさを感じていた。
 
 どうしてこの場所にロロノア・ゾロがいるのかがナミには理解できなかった。だからどんな顔をしていいかわからずきょとんとしてしまう。返事をしないのもなぜか不気味で居心地が悪い。普段の学校生活では愛想が悪いと思われているロロノアは短いながらも返事はしていたからだ。

 それにしても、とナミは苦虫を噛み潰したような顔をした。ロロノアに今この場所を見られた事は拙いかな……とナミは思った。地面に散らばっている生徒とただ1人無傷で立っているナミを見れば、誰が喧嘩の勝利者か子供でもわかるだろう。理由がどうあれ、ロロノア・ゾロがこの状況を見て「教師が生徒をボコボコにした」と一言証言すればナミは即クビだろう。だが、誤魔化すなんてできはしない。大事な生徒を守ると決めた時から覚悟はできている。

 コホンと改まってから、ナミは真面目な顔で再びロロノアに問いかけた。

「ロロノアどうしてここにいるのよ?」

「……………………」

「ロロノア。あんた喋れるでしょうが。どうして無言なのよ」

「……………………」

「無駄は嫌いよ、時間がもったいないわ。答える気がないなら今すぐここから立ち去りなさい」

 喋らずただただ睨(にら)んでくる相手に疲れたのか、ナミは腰に手をあていつもの教師口調で指示した。ついいつもの癖(くせ)でメガネをかけ直す仕草をしたが、今はかけてないことを思い出す。伊達(だて)メガネだったので視力には問題ないのだが、癖は抜けないらしい。
 
 そこで初めてロロノアが口を開いた。

「おまえ誰だ? どうして俺の名前知っている?」

「はあ? なに言ってんのよ。毎日顔合わせてるでしょうが」

「ああ? おれはおまえみたいな女は知らねェ……って、まさか同じ学校の生徒か、なんかか」

 ガッガッガと頭をかいて悩む生徒の態度を見て、ナミはゾロが目の前にいるのは毎日顔を合わせている教師のナミだとは気づかないようだ。「そんなバカな」と口にだしそうになるのを慌てて呑みこむ。このまま何も気づかず事を終わらせる事が先決だと思ったからだ。

 ポリポリと頬をかいて間延びした言葉になりながらも誤魔化してみる。

「あー……私の勘違いみたい。いやね〜、勘違いしちゃった。さっきルフィ達から助けを求められて、今、今ここに来た所なの。携帯で知り合いに助けを求めたからもうじきくると思うわ。ちなみに同じ学校よ…………ん?」

 そう言ってからふと、学校から見た狼煙(のろし)の事を思い出していた。狼煙などと時間のかかるものをわざわざ用意するよりも携帯電話を使えばすぐに連絡が取れるのに。どうしてまず携帯に連絡がこなかったのだろう。先ほど組にいる若い者に連絡をかけた時着信履歴も表示されていなかったし。それに生徒が狼煙の方法など知っているのだろうか。

 答えはNO(いいえ)だ。狼煙の方法は組の者しか知らない特殊なものだし、何らかの事情で組の者が生徒を助けたとしてもナミが狼煙を見てこの場所に駆けつける事は想像がついた筈だ。だとしたら、ナミを独り残して逃げるなどとは考えられない。義理難いヤツラだとよく知っていたから。

 だから、何かがふに落ちない。

 だが、そんな事にお構いなくロロノアは答えを聞けてホッと胸を撫で下ろした。

「なんだ同じ学校かよ、驚かせやがって。あーそういえばウチの学校の先生見なかったか? ダセェけど口の達者なオレンジ色の髪のやつ。あいつおれとの約束破って学校から飛び出して行ったんだが足速くて見失っちまってよ。おまえ知らねェか?」

「え、あ、な、知らないわよ。ここには来てなかったから。それより……」

 と言葉を続けようとした矢先、倒れていた他校の生徒が立ち上がり、叫びながら去って行った。

「こんなの聞いてないぞ! 交渉決裂だ!」

 声を合図に他の倒れていた生徒も次々に立ち上がる。まるで合図を待っていたようで見るからに怪しかった。

 ちょっと待ちなさい、と声をかける間もなく去って行った生徒を見送るしかなかったナミは脳内こんがらがり中で、イライラしていた。解からない事が2つも3つも増えたのだ、これ以上悩み事(なやみごと)を増やさないようにと、ゾロをさっさと帰してしまうべく息を吸い込んだ。

「ねえロロノア……君。そろそろ」

「お嬢ー、ナミお嬢ー!」

「ゲッ」

 そろそろ帰った方がいいわよ、と続けようと思った矢先に。組の若い者の声が聞こえてくるなんて、なんと間の悪い。それに大声で「ナミお嬢」なんて言うんじゃないわよ! 私の事生徒と思ってるこのバカにばれるじゃない!

 声のする方へとロロノアが振り向くのをいい事に、ナミは頭の上で大きくバツ≠作って黙らせようとした。そして口をパクパクさせて『ダ、マ、レ』とも必死になって伝えようとしたが、相手には自分が歓迎されているものだと勘違いしたらしく、

「お待たせしてすいやせん! ナミお嬢の為ならどこでも来ますからねー」

(あのバカ……帰ったらしめないと)

 フフフと無気味に笑うナミとは反対にロロノアは驚いていた。

「ナミって……まさか、先生か?」

「やだー違うわよ、ロロノア君」

「そういやァ……厚化粧だし……」

 ボカッ!

 小気味よい音でロロノアが殴られていた。

「殴るわよ!」

「殴ってから言うな!」

 目じりに少し涙を溜めて、腕を持ち上げてどのくらいコブができているか確認するようにそっと頭を触る。これは2、3日痛みそうだとつい溜息がこぼれた。

 そんな2人のやりとりを見て、駆け寄ってきた組の若いものはなだめるように

「まァまァお2人とも落ち着いて下さいよ」


「おまえは黙ってろ!!」


 2人同時にツッコマれた彼はなんだか不憫(ふびん)に思えた。





                     ◇◆◇





「へえー……他校の生徒にお願いして喧嘩(けんか)した振りして、あまつ組の若いもんまで巻き込んで、そして何より私を心配させて。あんた達は何がしたかったのかしら?」

 場所は変わって、ここはナミの実家だった。ヒクヒクと引きつった笑いを懸命にこらえて、まだ優しく問い質している。

 今はまだ……だが。

 広い道場にナミの学校の生徒が10数名正座で並ばされている。ナミにお説教されている最中だ。本当に怪我をしている者を病院へ連れて行った後、逃げとしていた生徒の襟首(えりくび)をむんずと掴まえて家まで引っ張ってきたのだ。

「さあ、弁解の時間よ。言い訳があるなら聞きましょう。ルフィはとんでもない事言いそうだし、サンジ君は見つめてくるだけで話合いにならないし。迷子は関係ないみたいだし。じゃあ……ウソップ、話して。ただし、嘘つこうなんて考えないで。真実を吐くまで鼻掴(つか)むから、覚悟してね」

「迷子じゃねェ」

「ほら、とっとと話せ」

 ニッコリ笑顔でゾロの抗議を無言で却下し、ウソップには鼻へと手を伸ばそうと動かし始めた。

「は、話すから! その手をひっこめろよ。おっかねェな……まったく。……いえいえ、なんでもありません! はい!」




 ウソップは身振り手振りで説明し始めた。

「いつもお世話になっているから、誕生日が近い先生を祝うべく他校の生徒が持っている島を夜1日借りたいと申込みに行ったんだ。ナミの家にいる組のお兄ちゃんにも協力を頼んで一緒に行ったけど返り討ちにあっちまって。一般人相手に気軽に手出しできないからって兄ちゃんは狼煙でナミ先生に助けを求めたらしい。携帯電話で連絡を取ればよかったんだけど、生憎(あいにく)忘れたらしいぜ」

「じゃあ、あんた達私の誕生日祝う為に相手に頭下げに行ったの?」

「そうだぜ、いつも喧嘩してた相手に頭下げんのも男ってもんだろ! でも『大人しく殴られたら』なんて条件つきつけやがって。結局ルフィが切れかけたけど先生との約束守って殴られたって訳だよ。ごめんな……心配させて」




 これだから先生という職業は辞められない。毎日怒られても慕ってくれるカワイイ生徒がいるなんて。


 そう思うとナミは自然と微笑んで答えた。怒るのはあとにして、まずは彼らに言う事がある。


「あんた達……――有り難う」





                     ◇◆◇





 今度盛大に誕生日を祝うから、とナミに挨拶をして生徒達は散りぢりに帰っていった。

 ロロノア・ゾロを残して。

「で……あんたはどうして帰らないの?」

 ジト目で尋ねられたゾロは照れた様子でボソボソと話す。

「……おれだってプレゼント持ってきた、ん、だ」

「なんて?」

「……うっせェ」

「聞こえにくいから聞いてるのに逆ギレ? 今日ほど大変な1日ってないわー」

「聞こえにくいって事は聞こえてんじゃねェか。じゃあ2度も言わなくていいだろうが」

 カワイイんだから、と小声で呟(つぶや)いたナミは、クスリと笑み、両手を添えてロロノアに差し出した。

 なんの意かわからないロロノアは何だ? と不審(ふしん)そうに手を眺(なが)めていた。

「もう、くれるんでしょ。プレゼント。ちょーだい」

 小首を傾いでねだるナミにボンと効果音が聞こえてきそうなほどにゾロは顔を真っ赤にさせて俯(うつむ)いてしまった。意外とウブのよう。

「…………やろうと思ったけど、やめた」

「んなっ! どうして? 一度くれるって言ったじゃない!」

「そんな素顔見せられたらコンタクトなんてやれなくなった。メガネも似合ってるからでいいけどコンタクトにしたらもっと綺麗になるってわかったからな。……素顔を見たヤツらもおまえの事注目し始めたからな、コンタクトはやめだ。学校に素顔でいたらマユゲに襲ってくれって言ってるようなもんだ」

 一気にまくしたてたゾロは、一息つくとおそるおそるナミの方へ向きなおした。真っ赤な顔はそのままで。

 きつねにつままれたような顔をしていたナミは「プっ」と吹き出したかと思うと、ゾロの首へ両腕を巻きつけ、ぶら下がるようにして答えた。

「じゃあロロノアの前だけコンタクトにするわ。だからプレゼントくれるわよね?」

「ああ……」








おわり

 

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 ←背景画像お借りしました。 トリコ 様