Dear my sweet honey……
                         ―後編―





「…………という訳だ」

 いつの間にか輪になってゾロの話に耳を傾けていたクルーの面々は、思い思いの反応で答えた。

「やっぱり、オ、オレ、一人っ子でいい(?)」

「おれ様ははじめっから信じてたぜ! なんたって、おれ様心も偉大だからな!」

「そうだよな。このおれがゾロよりモテナイなんておかしいもんな。ナミさんを癒して差し上げなければぁ♪」

「行かんでいい!」ゾロが赤ん坊を起こさないように、抑えた声で吠える。

「ニシシシシィ。な〜んだ。ゾロ、最初っからいえよな! そういうことはよ」

「あら、もう少し遊べると思ったのに……残念。フフフ」

 さっきまで抑えていた声はどこえやら、

「お〜ま〜え〜ら〜!! 説明させなかったのはどこのどいつだぁぁぁ」

とわめきちらす。

 当然――――

「うっ、うっ、うわ〜〜〜〜〜〜ん、あ〜〜〜〜ふぇ〜〜〜え〜ん〜あ〜〜〜〜〜〜〜」

 赤ん坊の逆襲である。『寝てられねぇんだよーー』といわんばかりの泣きかただ。

 冷たい汗をかいて、ゾロは慌てて赤ん坊の背中をポンポンと叩いた。

「あ〜よしよし。ベロベロバ〜。いい子だろ? 泣きやまないと飯やらないぜ〜」

「クソマリモ! あやしてんのか、脅してんのかわかんないんだよ。……にしてもベロベロバ〜はないだろ? 
ベロベロバ〜は!!」

「そんなこたぁーどうでもいいんだよっ! ああ。泣きやまねぇ。さっきは大丈夫だったのに」

 ゾロはカワイイものにめっぽう弱かった。

「任せろ!」といって赤ん坊をゾロから取り上げたサンジは、赤ん坊が更に大泣きするという結果に終わった。

 トナカイ型ではどちらが赤ん坊なのかわからないというので、チョッパーは人型になった。
抱かれた感じがサンジのときより安心できたのか泣きやんだが、グズっていることにかわりはない。

そこで、次にバトンが託される。

 三番手はウソップだ。

 ――ところが、ルフィが自分の番を待ちきれず、赤ん坊を抱き上げた。赤ん坊は高いのが好きだとごうごして、思
いっきり腕を上につきあげた。上へ上へと。

 つきあげられた手は、蜜柑の木を超え、マストと背比べのごとく、ぐいぐい突き進む!!

 ついに、赤ん坊はその目で麦わら海賊旗を見たのであった。それと同時に、

 チョッパーの苦労はどこへやら? 赤ん坊の大泣きが再来してしまった。

「だーー。どうしておまえはそうなんだ!? 普通の赤ん坊は恐いんだよ! あの高さはっ」

 ゾロはルフィに詰め寄る。

「ありゃ〜。そっか、ごめんな。赤ん坊」

 素直に謝るのはよいことだが、赤ん坊には通じていない。依然泣きわめいている。

 そこでウソップが「男だから駄目なんじゃないのか? ロビンに抱いてもらえばいいじゃねぇか」といったのだった。

「ロビン頼む!」

 珍しくうろたえているゾロを見て、ロビンは「いいわよ」と微笑んだ。

「八輪咲き(オーチョフルール)」

 サッと、手を八本赤ん坊に咲かせる。

「待ったぁ!!!!!!!!!」慌ててゾロが青い顔をして止めに入る。

 赤ん坊を、なかばふんだくるようにして取り戻す。

「もしかして……赤ん坊に技かけようとしてたか?」

 ロビン以外のクルーの顔がサーと青ざめた。奥歯がカタカタ鳴っている。

(黙らせるためか?! ヒィィィ、一番恐ぇのはロビンじゃねぇか)みな思ったことは同じだろう。

 その反応を見たロビンは「イヤね。違うわよ。……フフフ」とだけいってゾロの赤ん坊を残念そうに見やるのだった。



 そこに、バンッと勢いよく扉が開かれた。

 ナミが「あんたら。さっきからなにやってんのよ! ゾロ、赤ん坊抱いてもいいかしら?」と腕をだしたのだった。

 ゾロは無言でナミに赤ん坊を託す。

 優しく受け取ったナミは、赤ん坊をしかと抱きしめた。

「わー結構重いのね、赤ん坊って。よしよし〜名前は?」

「ソラだ」

「ソラ君ね。ソラ君どうしたの? お腹空いた? それとも……寂しいのかな。よしよし」

 といって、優しくトントンと背中を叩いてやる。その光景は本当の親子の様だ。ナミはまだ若いが、なぜかさまになっていて、何年も子供の世話をしてきたかのようだった。

 ナミの優しさに触れてなのか、ソラ君はうとうとしはじめた。




 時間が過ぎ、今はソラ君をナミのベットに寝かせている。

 寝かしつける間他のクルーはサンジの食料持ちとして、ナミに陸へ行くようにいわれたのだ。

 買出し責任者のサンジは悔しがったが、ナミの「おいしい料理期待してるわね。サンジ君」という猫なで声に惑わされて、我さきにと買出しに出発して行ったのである。




 ゾロを除いて――――

「ゾロはソラ君の監察責任があるからいないとダメだわ。わたしはなつかれてるし……」

 そういって他のクルーも追い出し……もとい、納得させたのだった。


 ナミがソラ君の背中をトントンと叩く音だけが船内に響く。


 やがて、ゆっくりとナミは言葉をゾロにかけた。

「ごめんね、逃げ出したりして。恐かったの、ゾロに子供がいるわけを聞くのが……。
でも、扉を閉めてその場にへたりこんじゃった。足が震えてて……扉の所まで歩くのがやっとだったのよ。
でも、へたりこんでよかった。曲がりなりにもあたしの誕生日気づいてくれたっていうことが判ったんだもん! ありがとう」

 ゾロもソラ君から視線をナミへと移す。

「いや、おれも悪かった。ナミの誕生日を、よりにもよってクソマユ毛に思い知らされるなんてな。情けねぇ。好きなやつの誕生日忘れるなんて……。おれはこんなだから、ナミの誕生日にも気づかない。おれでもいいのか?」




 ――(好きなやつ?)――

ナミはなんどもその言葉を胸の内で反復してみる。

繰り返すことで、自分に向けられた言葉だと気づく。


 暫くナミはゾロを見て固まっていた。目が左から右へ。そして、上を見て下へとおよぐ。


 ――ゾロの口からさりげなく、欲しかった言葉が語られたものだから。ナミも戸惑っていたのである。


 はじめはナミが返事を返さないことにいぶかしんでいたゾロも、自分のいった言葉に気づき、顔が真っ赤になってうつむいてしまったのだった。

 そんなゾロを目の端にとらえて、『カワイイな』とナミは思った。それに、今回子守りの経験は将来に生きそうだし♪ とも。

 ゾロを見据えて、自然と笑みがこぼれる。

「その言葉が最高のプレゼントだわ」

 とナミはゾロの懐に飛び込んだ。

 ゾロも大事に包むように抱きしめる。が、さきほどよりも顔が更に真っ赤だった。ナミの笑顔を見たからかもしれない。

「なんか恐ぇなぁ。でも、どうもナミは子供に好かれるみたいだし、将来は心配ないな。子供はまず女の子がいいな」

 とさらっといってのけた。

 そのひとことに、ナミは「もちろん、今回の子守りは利子3倍キッチリ頂きますからね」とニヤリと笑ってみせた。











 ソラ君を託児所に返して、もらったお金をどう使ったかは、また別のお話し。

おしまい






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<あとがき>
ナミ誕に小説を書かねば! と一大決心して、書きました。
恥かしいです。穴があったら入りたいとはこのことかぁぁぁという感じですね(笑)。


この話は、「赤ん坊」「(ナミ誕だから)ナミ×ゾロ」などといった言葉をキーワードにしました。
赤ん坊ネタはゾロが赤ん坊の世話をすることで、子供の可愛さを知ってもらおうと思ったのがキッカケですね。
ということは、まだ赤ん坊シリーズ(笑)ネタは続くものと思われます。

また妄想が膨らんだら、UPしていきたいです。

稚拙ながら、最後まで目を通していただいた方有り難うございます。