「ロビンの誕生日間にあわなかったじゃねーか。ロビンが怒ったら、おれの8千人の部下でもロビンには勝てないし……どうするんだサンジ?」

「バカやろう! おれは誕生日に間に合うようにケーキと最上級の愛を用意してたぜ、ゾロのやつが寝てたのが悪ィんだろうが」

ゾロ目掛けて蹴りを繰り出すサンジの足をヒョイと避けて、自分が名指しされたことに驚きつつ

「おれかよ? 鍛錬してたら眠くなったんだ仕方ないだろう。元はといえば、この航路を決めたのが悪かったんだろ」

 ふてくされるゾロに、ナミが机を叩いてゾロをキッとにらんだ。

「私は最短ルートをだしたわ。断言するけど航路は悪くないわよ! ゾロ後で覚えておきなさいね」

「おれは別にナミが悪いっていってねェだろうが」

「この船の航海士は私よ! 航路決めるのも私。航路に文句いうってことは、私を侮辱するってことよ。後で覚えてなさいね、ゾロ」

 ニタリと念を押すように後で覚えておけ≠ニ不敵に笑うナミに、ゾロは背中に冷たいものを感じた。

 そんな2人をよそに、話が続く。

「ど、どうするんだ? ロビン誕生日祝ってもらえなかったこと気にしてないように振舞ってるけど……寂しそうなんだ。元は敵だったから、祝ってもらえないのは仕方ないってきっと思ってるよ。定期検診した時も最近寝てないみたいでやつれているみたいだったし」

 小声でいうチョッパーに、それまで黙ってたルフィが静かに

「……遅れたことは仕方ないだろ。ちゃんと謝ればロビンも許してくれるって」

 笑顔でその場を取り成そうとしていたルフィに、サンジは

「ケーキ盗み食いしたおまえがいうな!」

 サンジのキックがルフィのみぞおちに命中したことはいうまでもない。





 ゴーイングメリー号は一路ログポースの目指す先へと進む。









地図にない島
(2005年ロビン誕生日祝い)












 ロビンは自分の見張り番以外の時間はたいてい読書をして過ごす。

 その日もロビンは潮風を受けてチェア―に体をあずけ、パラソルを立てて日光で本を傷めないようにして読書に時間を費やしていた。

 ロビンが読んでいるものは、ナミがアラバスタ国王から頂いた本の中にアラバスタでの採掘の詳細をまとめたもので、とても興味深く以前から気になっていたものだった。

(私はアラバスタの本を気軽に読める身分じゃないけど……貴重な情報であることにかわりないし。ごめんなさいね)

 後ろめたさを感じながら、報告書を手に取る。

 なにかを探すように報告書に目を通していると、航路を確認しにきたナミが甲板へとでてきた。

 普段の会話のように、なにげなく

「航海士さん、いまこの船はどこに向っているの?」

「え、いや、その……まだわからないの」

 ナミの返事は歯切れが悪い。

「でも、もう気候が落ちついてきたし……春とか、夏とか……なに島だとかもわからないかしら?」

「あ、ああ。……は、春島だと思うわ」

 ロビンはいぶかりつつも、「そう、わかったわ」といって報告書に再び目を落とす。

 ナミはそれを確認すると逃げるようにその場を立ち去った。





                  ◇◆◇




 読んでいた報告書に人影が落ちたので、ロビンは顔をあげて聞いた。

「なにかしら?」

 顔をあげるとサンジが立っていて、ニコリと微笑んで

「コーヒーのおかわりはいかがですか?」

 いわれてカップの中身をのぞいて見ると、底が見えた。先ほど、といっても30分前くらいだろうか。ちょうどよいタイミングだった。無くなってすぐにおかわりを注ぎにくると急かしてしる感じがするが、なくなって暫くたってからおかわりを勧められると好感がもてる。

「嬉しいわ、ありがとう」

 さりげなく添えられた菓子と、甲板まで持ってきてくれた気配りに感謝する。

 トクトク……とコーヒーが注がれるのを見ながら、ふとロビンは夕飯は何かと思い、サンジに尋ねた。

「準備はすすんでる?」

 その言葉を聞いたと同時に

 アチッという声と共に、サンジがコーヒーを手をこぼしたことが知れた。

 カップを見るとコーヒーがあふれてる。

「大丈夫? コックさん」

「え、いや大丈夫。ごめんねロビンちゃん……また新しいコーヒー持ってくるから。また後で」

 逃げるようにしてロビンの元から立ち去るサンジに、あまり気にもとめず「お大事に」と声をかけた。





              ◇◆◇





「あら、なにかよう?」

 視線は文章を追いつつも、こちらを伺うようにして隠れている――と彼らは思っている。体の一部が見えていて、隠しきれていなかったが――2人に本から顔をあげて、声をかけた。

「長鼻君に船医さん。それともかくれんぼのジャマしちゃったかしら?」

 ビクっと震えたかと思うと、恐る恐る物影から角と長い鼻が見えた。

「ど、どうして俺達がいるってわかったんだ?」

「あら、船医さん、だって私も能力者ですもの。気配でわかるわ」

「能力者って侮れないぜ、チョッパー。っておまえも能力者じゃねーか」

 こんなに小さくてカワイイのに! とウソップは思いながらも、ハッと自分の任務を思い出した。

『ロビンの様子を見てきて』とナミにいわれたのだ。読書中ならいいが、部屋の中へ入ろうとすればジャマしてこいと。

 なぜなら、部屋の中には飾りつけがされていて、部屋に入った途端誕生日会だと誰の目にもはっきりとわかってしまうからだった。

 そこで、言葉を選びつつ答えた。

「……じゃなくって、ロビンに用は……ないんだ。うん。おれ達は任務遂行のためにここに立ってるんだ」

「ごっこ遊びね、わかったわ」

 クスクスと笑って、ロビンは言葉を続けた。

 ロビンはウソップとチョッパーが自分を伺うようにして見ていたことを、遊びの一環だと思ったらしい。

 チョッパーは、そ、そうか、といってウソップの足にしがみついた。

 心のどこかでロビンを騙しているような気持ちがあり、ウソップの後ろに隠れることであけすけに顔にでてしまう自分の気持ちを隠そうとした。

 じゃあ、といって2人は去っていった。

「…………」

 ロビンは無言で送ったが、どこか監視されているようだと小さく感じた。

 次の瞬間には、勘違いでしょうけどと、あまり気にもとめていなかったが。






              ◇◆◇




「殺気を送るのやめてもらえるかしら、剣士さん」

 どこか楽しそうにロビンは見張りをしているゾロを見上げていった。ロビンにはゾロが本気で自分を殺すつもりがないのが見てとれたのか、体はチェアーにあずけたままの楽な姿勢だった。

「殺気なんか送ってねェ」

「あらそう?」

 それにしても機嫌が悪いわね、とはいわずにゾロが話すのを待った。

「……ルフィのやつがおれの酒を狙ってたんでな、気を悪くしたんなら謝る」

「謝ってもらわなくてもいいわ。……そう、酒ってことは女部屋に忍び込んだことが許せないのね。航海士さんも大変ね」

「な、ど、どうしてあいつがでてくるんだ!」

「だってお酒は料理酒以外、女部屋にあるじゃない。コックさんが料理酒が盗み飲みされるのをみすみす見逃す訳ないでしょう。だったら女部屋に忍び込んで、航海士さんと喧嘩……があったということは容易に推測できるんじゃなくて?」

「難しいことはわかんねェよ、でも……その通りだ」

 苦々しげにゾロはうめいた。

 素直ね、今日は、とはいわずにロビンはゾロに「用はなにかしら、剣士さん?」と聞いた。ゾロが用事もないのに話し掛けてきたことなどない。だから、今もなにかしら用事があるのだとそう思った。

 用はなんだ、と聞かれてゾロは自分が用事があってロビンに話しかけようとしていたことを思い出した。始めはどう話しかけようか思案していたら、ナミを見かけて、昨日ルフィが女部屋に忍びこんだ経緯を思い出していたのだった。今でも思い出すと腹立たしい。その思いのままロビンを見ていたものだから、殺気を放っていると勘違いされたのだった。

 気を取り直して、ロビンを誘いに来たことを話し始めた。





              ◇◆◇





 ゾロから誕生日会の用意がしてあるから、今すぐ来いよ、と誘われてロビンは読みかけの本にしおりを挟んで立ち上がった。

(誰の誕生日会かしら?)

 ゾロの後ろをついていく間――誰の誕生日会だったか、と首を傾いだ。





「お誕生日おめでとう、ロビン!」

 部屋に入った途端、大きな拍手と共に麦わらのクルー達に出迎えられた。

「え? 誕生日? わたし?」

「2月6日はロビンの誕生日だろう! 忘れてたのか?」

 目をしばたいてルフィは面白そうに聞いた。

「……そういえば誕生日過ぎたような気がするわ」

 呆れたようにナミが

「そういえばって、覚えてなかったの?」

「ええ、歳をとるってあまり嬉しくないわね。体のせんも崩れやすくなるし……体力も落ちるし」

 あっけにとられる面々に、ロビンはきょとんとするばかり。

「ああ、今日1日あなた達の様子がおかしかったのは、誕生日会の準備をしてたから?」

「そうよ、誕生日過ぎてたし……今更ってロビンには思われるかもしれないけど」

「そんなことないわ」

 有り難う、とロビンはみんなにお礼を述べた。

 でも、それじゃあとナミは思案気に

「……誕生日を忘れてたってことは、最近元気がないのは関係なかったの?」

「え? なんのこと?」

 ナミは先日話し合ったときの事を思い出しながら、おずおずと話した。

「いや……ロビンが誕生日祝ってもらえなかったから、段々誕生日をきに、やつれてるってチョッパーがいってて」

「船医さんが? ああ、寝不足かっていわれたわね。でもそれは遅くまで読書してるからだと、自分でわかってるし……問題ないわ」

 問題ないといわれてナミ達は気が抜ける思いがした。ドッと疲れが襲ってくる。

 頭に手をあてながら

「私達の勘違いだったみたい」

「わからないわ。どうしたのか話してみて?」

 ガックリとうなだれる面々に、ロビンは諭すように静かに尋ねた。





             ◇◆◇





「…………」

 ロビンはナミの説明を口を挟むことなく聞いていた。

 ナミが必死に説明する。

 ロビンの誕生日を祝おうとクルー全員で料理やプレゼントの準備をしていたこと。けれどゾロの居眠りから目指していた島には着けず、おまけにルフィまでがロビンの誕生日用の料理を食べつくしてしまったことなど……。

 ナミの身振り手振りの説明を、そうだったの、といってロビンは納得した。

 どうりで最近みんな私に気を使っていたのね、とも思った。

「そんなこと気にしなくていいのに」

 今までに色んな船に乗って航海してきた。

――けれど、幼かった自分を祝ってくれた人などいなかった。

 祝ってもらえる私でもなかったから。

 祝ってもらえないのは仕方のないことだと、そうずっと思ってきた。

 静かに語るロビンは……努めて明るく話すわけでもなく、ただ、淡々と語った。




「…………」

 誰もが重い雰囲気を感じて黙っている。

 が、船長の飾らない笑顔で

「でもよーやっぱり誕生日祝ってもらった方が誰だって嬉しいだろ?」

 と満面の笑みでロビンを驚かせた。

 だから、自然と口をついていってしまったのだった。

「ええ……嬉しいわね」

「だったら、着いてこいよ!」

 ロビンの腕を引っ張って、ルフィは島の奥へと駆け出した。






 道なき道を進み、無人島を駆け巡った。

 洞窟を進み、天井から太陽の光が降り注ぐ場所へと辿り着いたとき、ロビンは無造作に点在している遺跡を見て開いた口が閉まらなかった。


「…………すごい」

 言葉はそっけなかったが、少女のように目を輝かせる姿からとても喜んでいることが伺えた。

「この島は、地図にない島なんだぜ!」


「地図に載ってないの?」

「そうらしいぜ。よくわかんねェけど」

「だから……手付かずのまま遺跡が現在に残っていたのね。すごいわ」

「ししし、いいだろう? ロビンに渡すプレゼントはなにがいいかみんなで相談したんだ! ロビンなら考古学の資料とかがプレゼントにいいんじゃないかってな。それで無人島で、未発掘の地域をナミが調べて……みんなで金だしあってエターナルポース手にいれたんだぜ」

 頭の後ろで手を組んで満足げに答えるルフィは、ロビンの様子を見て破顔していいつのった。

「気の済むまで研究してくれ! っていうとロビンはいつまでいるかわからないからなァ、それじゃァ一緒に航海続けられないから困るけど。ここのログがたまるのは3日前後らしいから、時間限られてるけど手伝えることあったらなんでもするからな!」

 え? と少なからず驚いたロビンだったが、次の瞬間にはいつもの落ち着いた口調で

「そういいなさいって、航海士さんにいわれた?」

「おう! ってどうしてわかったんだ?」

「ひみつ」

「女はわかんねェー」

 首をひねって考えるルフィを見ながら、楽しそうにロビンはくつくつと笑う。



 そしてニッコリと微笑んで、ルフィを誘うようにして手を伸ばしていった。

「さっそくだけど手伝ってほしいことがあるんだけど、いいかしら?」









おわり



<あとがき>
 ロビンの誕生日に遅れてしまいましたが、書きたかった話だったので; 麦わらの面々もロビンの誕生日を遅れて祝ってますが、遅れても祝ってあげたかったという気持ちは同じです。ニコ×ルを少し意識して書いたんですがさりげなさすぎたでしょうか(笑)
 ……なにはともあれ、ロビン誕生日おめでとう!


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