『おまえ、ナミだろう。なんだ、その身長? 』 呆れたようで、どこか優しい男の子の声が聞こえた。 ナミちゃんのリボン 4 (2004年チョッパー誕生日企画) 曲がりくねった石畳の道をキンと冷える中静かにテトテトとおれは進む。 おれの背中にまたがったナミちゃんは、馬にでも乗ったつもりなんだろうか? おれのお腹をバシバシ蹴るんだ。 きっと今もカウボーイか、カウガールのイメージでおれの背中に乗ってるんだろうな。おれ馬じゃなくってトナカイなんだけどな。 そんなことしなくってもちゃんと言葉が通じるっていうのに。もう、またノリで物事を進めてるな! まったくー。 すねるぞー、シクシク。 思ったら悲しくなってきた。 せめて次からは馬と間違われないように、ソリでも用意しとこうかな。なんたってトナカイだし。 うんうん。 おれは一人ごとをブツブツとつぶやく。 「フ〜フフフン、フンフン」 ナミちゃんはすごくごきげん。 歌(らしきもの)を口ずさんでる。 それはそうと、考えなくちゃいけないことがあるんだ。ナミちゃんにいわないと! おれは機嫌のいいナミちゃんに、オズオズと聞いた。 「あのさ……ナミちゃん」 「ん、なあに?」 「ゾロ君に会うときもこのままなの?」 「このままって、身長のこと?」 「うん、そう。魔法の存在が第三者にバレたら、即おれとしゃべれた記憶とか消されるんだよ! もっと慎重になってほしいんだ」 「チョパタ……」 質問を質問で返す言葉のかけあいだったけど、おれはナミちゃんに必死に頼んだ。 それにはナミちゃんも心を動かされたみたいで、真面目におれの話を聞いてくれた。 「そうだよね。チョパタと話せなくなるのイヤだし。そろそろ木陰で変身とこうかな」 パァァァ〜っていう音とともに、おれの表情が明るくなる。 「うんうん! それがいいね!」 おれの意見が採用されたことが嬉しくって、ついついおれは声がうわずってしまう。 (一度いったこはなかなか曲げないナミちゃんがおれの意見を聞いてくれたなんて! ……明日雨降ったらいやだな。あ〜ナミちゃんが素直すぎてなんか怖いけど、大丈夫だよな……アハ、アハハ) 少し顔が引きつりつつくるり、と方向転換しておれが木陰へ向って歩こうと一歩を踏みだすとき―― 「小せェな、ナミ。新手の遊びか?」 男の声が背中にかけられた。 ギギギギギ……ブリキに油がさしてないような音をたてて、おれとナミちゃんは声のした後ろをゆっくりと振り返った。 「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」 ナミちゃんの耳をつんざくような声があたりに響く――体が小さいからあまり迷惑じゃないけどね―― 「な、なんだ。どうした!」 声をかけてきた男の子が慌てたようにおれとナミちゃんを覗きこんでくる。 「わ、わ、わ、あ、あ」 言葉にならない悲鳴。 ナミちゃんの目が白黒しているのが気配でわかったから、おれはダンと地を蹴って男の子の手目がけてジャンプしたんだ。 キラーン。 おれのじょうぶな歯がきらめく。 ガブリッ! 「な、なんだこれ!」 驚く男の子におれは誇りを持って噛みついてやったんだ! 噛んだのには理由があって、男の子の手を噛んで、この場を逃げようってこんたんだ。 うーん、われながら上手くいった! 勝ち誇っているおれに、ナミちゃんが慌てて声をかけた。 「ゾロ放して、チョパタになにすんのよ!」 って、おれに声かけてくれたんじゃないの? ナミちゃん……。ん? ゾロだって! こいつが? ガーン。 ショック。 「うっせェ。だいたい噛みついてきたのこれだろうが! ナミのアホ」 これって……おれのことか? コノヤロー 内心毒づきながら、おれはあごに力を込める。 ナミちゃんをアホよばわりなんて……いい度胸だな、こいつ。おれのナミちゃんに……ムカ。 あごに力を込めたのは、この男の子――ゾロだったんだけど――に少しお灸をすえてやろうと思ったから。 「フンガ……ガガ……。ガガ……!」 ざまーみろ、痛いだろう! 高らかに自分ではそう言ってたつもりだったんだけど。どうも、カッコがつかないセリフになっちゃった。 ま、ゾロの手噛んでるから仕方ないんだけど。 「な、なんだこいつ。チョパタじゃねェか――それにしゃべってるし」 「あ、え、ち、違う……チョパタしゃべってないわよ。いいから、ゾロいいから手を放してよ!」 ついもらしてしまった事実をナミちゃんは必死に隠そうと頑張ったんだ。 おれがしゃべってしまったっていう事実を。 でも、頭にきていたおれはそんなことに気づかない。 そしてまた 「ガルル……」 しゃべってしまった。 ゾロは苦虫を潰したような顔をしてたけど 「はァ? だからこいつが放さないんだよ、おまえもガンコだなァ。ラチがあかねェから、チョパタ引き離すぞ」 おれをもう片方の手で掴むようにして引き剥がそうとするゾロに、ナミちゃんはハッとなにか気がついたように慌てて声をかけた。 「そんなことしたら、牙が手によけいに食い込むわよ!」 その顔はいたずらを思いついた子供のよう。 (してやったり。これでチョパタが逃げる時間稼げるといいけど) ナミちゃんはニヤリといたずらを思いついたように笑った。 動きの止まるゾロ。 眉をひそめて、おれをチラリと一瞥し、そして呆れたようにいった。 「はァ? こいつぬいぐるみだろう、痛くもなんともないぜ」 「しまった――! ゾロなら引っかかるって思ったのに。こんなときだけ頭の良さを発揮しないでよ、まったく」 頭を抱えてナミちゃんは焦った。 ぬいぐるみ並にゾロの頭はつまっていたようだ。 (おれと同じだな、うんうん) 素早くおれの首根っこを掴む。そして背中に手を添えるようにして楽な体勢でおれを抱えた。 (アッ!) と思った時にはゾロの胸に抱えられてた。 大事そうに―― (おれゾロの私物じゃないんだけど。大事に扱ってくれるんだ……以外だな。こんな恐そうな顔なのに) ゾロの胸にスッポリ収まったおれは、ゾロの顔を見上げながらちょっと関心してた。 口をむんずとゆがめてはいるが、おれを丁寧に扱う姿はお父さんみたいだな、とチョパタは思った。 ポテポテテ、トントン。 ひずめを立てないように、腕のあたりを触ることでチョパタなりに確認してみる。 「うー……ん」 「うーん、じゃねェ! くすぐったいだろうが、やめろ。おい、ナミ、チョパタどうにかしてくれ」 さも嫌そうにゾロはナミへと助けを求めているが、ナミから見るとまるでじゃれているように見えた。 「…………え、いや、だって楽しそうだし」 チョパタがゾロに興味を抱いて、ゾロも嫌がることなく遊んでやっている姿になかば呆然としていた。チョパタがしゃべっているという事実に、騒ぎ立てることもないゾロに警戒心をもっている自分がばからしくなってくる。 けれど、ハッとこのままの状態ではいけないと思いナミは努めて明るくいった。 「チョパタも、ゾロもじゃれてないで、ね。私の話真面目に話し聞いてほしいんだけど」 「じゃれてねェ!」 「そんなことないよ!」 照れたチョパタとゾロが同時に振り返ってナミににじり寄る。 「あーはいはい。じゃあそういうことでもいいから」 好きにして、といわんばかりに手を振って2人から目線をそらす。 「……ん?」 目線をそらした先、先ほどナミが変身をとこうとしていた木陰の根元に、巻物が落ちてあった。 もう、チョパタって肝心なところ抜けてるんだから。とぼやいて、巻物の近くに歩をよせる。 けれど背が小さいのでとても持ち上げることなどできない。 「仕方ないわね」 素早く木陰に身を隠し変身をといて、巻物を拾いあげた。 チラリと後ろを振りかえって見ると、チョパタとゾロはお互いをにらむように微動だにせず観察していた。 だー素直じゃないわね。何か行動すればいいのに、と内心毒づいて、なにげなく手元の巻物を広げてみた。 「うわー……びっしり文字が書いてある。まめね〜あの子も。性格でてるわ」 関心しているのか、呆れているのかわからない調子で、スルスルと紐を片方の手に巻きつけて文章の先を読んでいく。 『一度目は通しておいたほうがいいわよね』という軽い気持ちからだった。 数分後―― 「あれ? ここのりづけしてあるのかしら」 キラーンとナミの目が輝いた。 まるでお宝を見つけたハンターのよう。 破れないように丁寧にめくっていくと。 「なになに……」 ナミちゃんはブツブツと読みはじめたんだけど、いいあいをしているおれには内容が聞こえなかった。 『チョパタへ。 この規約はナミさんには内緒よ? だってバレたらナミさん今よりもっと大胆になるだろうから。いい、よく見てね。ナミさんには魔法が第三者にバレルと大変なことになるっていったでしょう? でもね、問題ナッシング! 将来のダンナさんになる人だったら問題ないの。ナミさんが誰と結婚するなんて私にもわからないけど、きっとチョパタのことも大事にしてくれる人だと思うから。頑張ってね ビビ』 (問題ナッシング! って……あの子、お調子者なのかしら? でも……ダンナって。毎日惜しげもなくゾロの屋敷に忍び込んでた私の苦労が報われるかしらね。えへ、いいこと知っちゃった。ゾロが私以外の女を見れないように、毎日暗示かけてるかいがあったわ) 頬を染めて恥らうようにしてナミは顔に手を添えた。 舞い上がってるナミちゃんの隣りで…… おれはそんなことが書かれてあるなんて知らなかったから、この後ナミちゃんをめぐってゾロとの戦いが始まるなんて思ってもみなかったんだ。 優しいからって、まだまだ小僧にナミちゃんを渡せるもんか! 負けねェぞ! イケイケ、ゴーゴー、根性〜! おわり <あとがき> |