『おれは弱い者の味方なんだ! いくぞー!』








それいけ! チョッパーマン
チョッパーマンとロロノア君
(チョパ誕生日企画)









「くそっ、どうして真っすぐ進んでるのに道に出ないんだ?」

 森の中をくねくねと獣道なりに進んでいく男の子がいました。

 本人は真っすぐ進んでいるつもりでも、道なりに進んでいるだけなので、もう5時間ほど森に迷っています。

 しかし、普段からまじめに稽古にはげんでいる男の子は疲れた様子が見えません。

 疲れを知らない子――タフボーイでした。

 それもそのはず、その男の子は背中に竹刀を入れた袋をタスキがけにして持っていて、胴着姿。

 剣道少年でした。

 竹刀入れにはロロノア・ゾロ。5さい≠ニ大きな文字で書かれてあります。ゾロ本人がサインペンを握りしめて一生懸命覚えた字で書いたのです。

「まさかおれって……おれって……修行不足?」

 どこか勘違いをしているロロノア君。

 彼の頭に迷子という文字はないようです。

 竹刀袋から竹刀を意気揚々と取り出して、

「おっし! 頑張って練習すんぞー。おー」

 ブンブン竹刀を振り回します。

 勢いがよすぎたのか、スポっとロロノア君の手から抜けて上空へと飛んでいきました。

 ヒューーーーーーーーーーーーーンン。

 ドシーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン。

「アイタ!」

 そんな声と共に、空から物体が落ちてきました。

「ゲホゲホッ。な、なんだ?」

 土煙がまいます。

 ロロノア君は手で口を押えて、落ちてきた物体をしげしげとながめました。

 その物体はムクリと起き上がると

「いてェな! おい、どこの誰だ。アイタタ……」

 地面に頭をぶつけたようで、しきりに頭をさすっています。

 よくよく見ると、赤いマントをつけて、頭にはピンク色のカワイイ帽子をかぶっています。

 それを見てロロノア君は

「お、タヌキが降ってきた」

「違うぞー。おれはトナカイ……」

「タヌキ好きなんだ。嬉しいなー」

「だから、タヌキじゃないんだって。おれは見ての通りトナカイだよ」

「見たまま言ったら、タヌキじゃねェかよ」

 つぶやくロロノア君に、タヌキ――もとい、自称トナカイはヒヅメを両手で研いで、ロロノア君を脅します。

 頬を引きつらせたロロノア君は

「ト、トナカイだな。う、うん、わかった。おれトナカイも好きだから」

 身に降りかかる恐怖を悟ったのでしょう、ロロノア君は必死になって言いつくろいました。

「え? トナカイ好き? そんな、誉めたって何にもしないぞ、コノヤロー」

 自称トナカイはとても嬉しそうです。

 言葉は脅していますが。

「よっ、トナカイ。トナカイの中のトナカイ! ニクイねェ〜この、この」

 ロロノア君は5才とは思えないあおりっぷりを見せます。

 ついには口笛まで吹く始末。

 部長をおだてる平社員そのものです。

 末恐ろしい5才児、ロロノア・ゾロ。

 楽しそうに、トナカイに尋ねます。

「おまえ名前なんていうんだ?」

「おれ? おれの名前はチョッパーマン」

「チョッパーマンか。……なんかこの森に似たような名前のヒーローがいたような。……ま、いっか。おれの名前はロロノア・ゾロだ。よろしく」

 ヒーローの存在をないがしろにするロロノア君5才児。

「それおれのことだよ、うっへへ。チョッパーマンって言えば少しは有名なんだけどな。……まだまだ知名度低いかな。もっと頑張らないと!」

 正義のヒーローが知名度を気にする次点で何かおかしいことに気づかないヒーロー。森の住人――ロロノア・ゾロ君などに、このヒーローといったところです。

 ふと、ロロノア君は、トナカイにプックリとたんこぶがあるのを見つけました。

「ん? その頭のコブどうしたんだ?」

「ああ、これか。さっき空を飛んでたんだ。そしたら、いきなり竹刀がとんできてさ。おれに直撃だったんだ。で、気づかずに、当たって地面に落ちた」

「ふ、ふーん。大丈夫か?」

 ロロノア君の顔は、また引きつります。

「うー。この竹刀の持ち主に文句言ってやろうと思ってたんだけど、どこだか」

 目くじらを立てて怒るチョッパーマン。

 ロロノア君には驚異でしかありません。

 そそくさと、逃げるのがいいと思い、

「じゃ、じゃあ、おれ急ぐから。帰るよ。じゃーねーチョッパーマン」

 言葉が棒読みのロロノア君、目がうつろです。

「おまえ迷子だろ?」

「違う」

 ロロノア君、即返答。迷子という言葉が嫌いなようです。

「だって、ロロノア・ゾロって迷子の代名詞としてこの森じゃ、有名だぞ?」

「そうなのか? 知らなかった」

「知らぬは本人ばかりなりってのう、フォッフォッフォ」

 どうやら、チョッパーマンは昨夜、水戸黄門ビデオを見たようです。

 口調が爺さん。

 ヒーローが年寄りだと、助けが二重に必要なので、年寄りは止めたほうがいいなァ、とロロノア君は考えます。

 しかしハッと気がついて、早くチョッパーマンから逃げなくてはいけないことを思い出しました。

 早口で

「帰るよ、じゃあな、チョッパーマン」

「ん? そうか――ってあれ? 竹刀に名前書いてある」

 ビクっと体を震わせたロロノア君は、チョッパーマンから少しづつ、かつ大胆に距離をとります。

 チョッパーマンは竹刀に書かれてある名前を読みあげました。

「……なになに。汚い字だなー。ロロ、ロロノア・ゾロ。5さい」

 書かれてある名前を読みあげた途端、チョッパーマンの周囲の温度が3度下がりました。

 バキッ

 チョッパーマンのヒヅメがうなります。

「ゾロ君……これ君のだったの? 竹刀」

 すごみのある笑顔で、ロロノア君を問い詰めるチョッパーマン。

「ヒィィィィ」

 ロロノア君は息をのんで、チョッパーマンの前から逃げるように走り出しました。








 迷子になってから5時間ほどたっていたロロノア君でしたが、チョッパーマンとのおっかけあいも、3時間くらいネバリましたとさ。

 チョッパーマンを養う約束をして、ロロノア君は許してもらったそうです。


 この日以来、8時間ぶっとおしで森をさまよった男の子として、ロロノア君は

タフボーイ≠フ名前を冠しましたとさ。






おわり

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