『諦めきれない気持ちが、自分の中に残ってよかった。
結果論だけどな。
それでも……
胸に抱いたナミを見ると、想いが届いたのだと実感できるから』
19 100年先には誰も知らない
(ゾロ誕アンケート第一位「姉弟」)
「あのね……ゾロ。もう手放してもらえる?」
「…………やだ」
「やだ、じゃないでしょう、もう。いったいいくつよ、まったく」
「…………やだ」
頑固に首を振ってナミの腰をギュッと絡めるように抱いて、壁を背にしてゾロはベットの上に腰を下ろしていた。
ナミはジタバタとゾロの腕の中でもがいてみたものの、本気で嫌がる風でもなく、先ほどからゾロに背中からスッポリと包むように抱かれていた。
「もう……幼稚園の時に戻ったみたい」
クツクツと懐かしむようにして笑むナミはゾロにそっと体をあずけながら、ゾロの耳に囁(ささやく)くようにして言葉を続けた。
「っていうより、あんたは昔っから基本的に変わってないのよね。……変わったのは、わたし。嫌よね、歳を重ねるって。余計なことばっかり考えちゃうのよ」
皮肉気に笑うナミの言葉を打ち消すように
「変わらない人間なんていねェよ」
ポツリと一言。
一言だったが、ナミにはゾロの優しさが感じられて思わず涙が溢れ出てしまった。
んなっ!
ヒックヒックと、肩を揺らして泣くナミにギョッとしてゾロは慌てて声を重ねた。
「な、泣くな。な? ナミに泣かれると本当にどうしていいかわかんねェんだ」
「ん、うん。本当昔のまま優しいね、ゾロ」
「言ったろ? ナミを抱くために生まれてきたって。……もう二度は言わねェぞ」
優しい口調から一変、ニヤリとしたり顔でナミに語りかけた。
その言葉を聞いて、また暫くナミは涙がとまらなかった。
嬉しい涙と共に、ゾロの彼女に……彼女を裏切る行為だと思っての罪悪の涙を。
◇◆◇
暫く涙がとまらなかった。
それも辛そうに泣くのでゾロが不審がり、ナミにおずおずと尋ねた。
「どうしていつまで泣いてる? まだなんか余計なこと考えてんなら吐き出しちまえ」
「…………」
「…………ナミ。だんまりはお互いすれ違ってたことでも、いいことないってわかってるだろ? 何でも聴くから」
「……うん、ごめん。さっき『遅いかもしれないけど……好きって言っていい?』って聴いたでしょ? でもよく考えたらゾロには彼女がいたって気づいたら、わたし……横取りってことになるのかなって思って」
「はっ! 誰が誰の彼女だって? その前にちゃんと返事しただろうが! よく話聴け」
「な、ん。よく聞いてたわよ! ゾロ答えてくれなかったじゃない」
「おまえを抱くために生まれてきたってことは、おまえ以外は抱く気もねェってことだ! どうして、そう……自分のこととなると疎(うと)いんだ。まったく、早とちりも大概にしてくれ。マネージャーとはそんな関係じゃねェよ。最近メシの世話になったから付き合いだ、付き合い」
「えっ、そうなの?」
一気に肩から力が抜けた気がする。
最近ゾロにマネージャーがつきっきりだったから、ついそういう関係だって思いこんでたわ……ナミちゃん早とちり。
ペシリとおでこを叩いて、舌をチロリと出す。
気持ち穏やかに話しが聴けるのも、マネージャーがゾロの彼女じゃないってわかったからよね。
グゥーーーーー……。
安心した途端にお腹なっちゃった。
お腹がなるかいなか、ナミの顔がサッと赤らむ。
(ゾロにお腹の音聞こえたわよね……アハハ)
恐る恐る真っ赤な顔のまま後ろを振り返ると、必死に笑いを堪えたゾロが顔をそらして目に涙をためていた。
プーッと頬を膨らませているナミを横目で見て、ゾロは明後日の方向を向いたまま
「腹減ったな……メシにすっか」
「…………笑いたければ笑えばいいわ」
「食べてから笑わせてもらう」
「…………嫌味ね、まったく」
「食わねェのか?」
「食べるわよ」
◇◆◇
いざ食事にしようとゾロが冷蔵庫を再び見に行ったけど、最近ロクに物食べてないんだもん、食材のストックなんてあるわけないじゃない。
ああ、だからさっきゾロに最近わたしが食べ物食べてないってバレたのね。
ナミは最近食べ物を食べてないということで、ゾロから病人扱いされた。
ベットから動くことが許されなかったのだ。
(ちょっとフラっとするだけなのに。ゾロって心配性ね)
フラッとするからこそゾロはベットで寝ていろと釘を指していたのだが。
ナミがウトウトとし始めた頃――
うめぼしがのっているおかゆのいいにおいがナミのびこうをくすぐった。
「おら、少しでも食え」
「ん? ゾロが作ってくれたの? ……あれ、あんた料理できたっけ?」
「少しならできる。おら、さっさと食って、さっさと寝ろ」
「わかったわよ」
それに……とゾロは極上の笑顔で続ける。
「――添い寝してやっから。ああ、でもそれが楽しみだからって早食いは禁物だからな。ゆっくり食ってもおれは逃げねェから」
「アチ!」
ナミは思いっきり口の中でヤケドした。不敵にニヤリと笑うゾロに涙目でナミは抗議した。
◇◆◇
ゾロのサービス? いやいや、ただゾロがそうしたかったのだろう。夕食後、予告通りゾロはナミのベットの隣りに陣取って、添い寝している。
まったくこの義弟は……
義弟
そこまで考えてナミはハッと顔を強張らせた。
けれど、そんな顔をしていてはゾロにまた気遣いをさせてしまう。
だからナミは意を決して
「わたしね……ゾロのことずっと好きだった。あんたが幼稚園の頃からかしら。ほら、わたしが泣いてるとき黙って何時間も横に一緒に座ってくれたことがあったでしょ? なんだか安心してたのよ、子供心にね。たぶん先に好きになったのはわたしで、再び会って惚れ直したのもわたしが先」
「……そうか」
ゾロはナミも自分と似たような時期に互いに惹かれていたんだな、と思ったが口には出さなかった。ナミの話の続きが気になったからだ。
スーッと息を吸って、サバサバとした感じでおもむろに
「サンジ君とは別れたわ。元々友達の延長線みたいな感じだったし」
「――……そうか」
「うん、そうなの。あんたにも彼女がいなくて、わたしにも彼氏がいたけど別れた。お互いフリーってことよね?」
「……そうだな」
「残る問題は1つ……ま、これが一番の難関だったりするんだけど」
「…………」
ゾロは何か言わないといけないが言いあぐねているようだった。内容を察しているのだろう。
だからというわけではないが、先に言葉を切り出したのはナミで、
「義姉と弟って関係=c…年上だからって、色々考えちゃって。世間一般でも、法律でも認められない関係。考えれば考えるほど大人な考えが浮かんじゃって。『諦める』それしか浮かばなかったのよね」
「それで……おれのこといままで拒んできたのか……」
ゾロの言葉は呟きに等しい。
ナミは静かに目を伏せて
「それはない、とは言えない。義姉弟≠ニいう関係に恋愛を持ち込む勇気が持てなかった。愚かだと指を指されるのも耐えられなかったのよ。でも……」
「……でも?」
「考えるの疲れちゃった。ねェ、このまま世界の果てまで逃げる?」
おわり
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